続きは甘く優しいキスで
太田は席を離れて私の傍までやってくると、いつもより落とした声でやや早口で言った。

「今日の帰り、食事に付き合ってくれないか」

経理課にいた時には、太田からそういった誘いを受けたことがなかったから驚いた。しかし、同期同士で話したいことでもあるのかと思い、私は了承した。

「大丈夫ですよ」

太田はほっとしたように頰を緩めた。

「じゃあ、待ち合わせはロビーで」

「はい」

太田に軽く会釈して席に戻った私は、早速パソコンの画面と向き合う。

ご飯に行くなら、今やっている入力分をなんとか時間内に終わらせないと……。

事務用品の注文の取りまとめも入力作業も、なんとか無事に終えることができて残業を免れた。パソコンの電源を落としながら太田の席に目をやると、彼はまだ席にいて作業中のようだった。彼が仕事を終えるまでは、まだ少し時間がかかるように見える。

少し待つことになるかもしれないと思いながら、私は同僚たちと課長に帰りの挨拶をして廊下に出た。ロッカールームで身支度を整えて、荷物を手にロビーへ降りて行く。出入り口付近のソファに誰かが座っていると思ったら、その人物が立ち上がって私の方へと近づいてきた。

「太田さん?」

彼は私に向かって軽く手を挙げた。

「お疲れ様」

「お疲れ様です。降りて来るの、遅くなるのかと思ってました」

「笹本を待たせたら悪いと思って頑張ったよ」

太田はにっと笑う。
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