続きは甘く優しいキスで

23.制裁-そのとき拓真は-

俺は医務室に彼女を連れて行った。自分で歩くからという彼女の言葉はきかず、むしろぎゅっと抱きしめた。痛い思いをさせてしまったと、完全に彼女を守り切れなかったことが悔しかった。

医務室にたどり着くまでに数名の社員とすれ違う。皆、何事かという目で見て行った。この後噂が広まるかもしれないが、俺が誰であるかも、恥ずかしさに顔を隠している彼女が誰であるかも、どうせ分からないだろう。とにかく今優先すべきことは、彼女の手当だ。

医務室に入って行くと、部屋の中は無人だった。灯りはついているから、少し席を外しているだけだろう。俺は碧をベッドの上に下ろした。

その時背後でドアの開く音がした。

振り向くと白衣姿の女性が立っていて、俺を見るなり軽く驚いたような声を上げた。

「あら、常務じゃない。どうしたの?どこか具合でも悪いの?」

「え?常務って何のこと?」

内心「しまった」と思った。すぐさま女性に向かって目くばせする。

――その呼び方はやめてくれ……っ。

碧が混乱したような顔で、俺をじっと見上げている。答えを求めているのが分かった。

女性に悪気はないのが分かってはいても、恨めしくなる。いや、いずれ公にするにしても碧にはまだ知られたくないと思っていた。どうせなら自分の口から前もって説明したい。

女性は俺の目くばせと微妙な表情に気づくと、なるほどというように軽く目を細めた。足さばきよく歩いてくると、俺の前で足を止めて軽く首を傾げた。

「具合が悪いのはそちらの人?じょ、いえ、拓真君の陰になって見えなかったわ」

女性は俺を押しのけるようにして、碧の前に立った。
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