続きは甘く優しいキスで
碧はというと、まだ戸惑った顔で俺を見ている。

俺は軽く咳払いをすると、碧が今最も知りたいと思っているだろうこととは別のことを口にした。

「この人は、うちの産業医の高階絵未子先生。俺の年上の従姉なんだ」

絵未子は不満そうな顔を俺に向けた。

「年上ってのが、ひと言余計なんだけど」

彼女は元々某医療法人で勤務医をしていたのだが、結婚、出産を機に医者をやめていた。しかし、ある程度子育ても落ち着いてきたからと言って、改めて勤務先を探していた。そんな時にタイミングよくここの医務室に空きが出て、それ以降ここで働いている。

「それで、絵未子さん。彼女を診てやってほしいんだ。実は……」

俺は碧の肩を抱き、少しだけ声を落とした。

「彼女、さっき同僚に乱暴されたんだ」

絵未子の眉がきっと上がった。

「乱暴って、何よそれ。……ん?」

絵未子は身をかがめて、碧の顔をじっと見た。

「この頬、叩かれたの?腫れてるわね。それに、これ」

絵未子は碧をじっと見つめる。

「唇も切ったのね」

「はい。たぶん、叩かれた時にだと思います……」

痛々しい様子の碧に、絵未子は優しい目を向ける。

「ちょっと手首も見せてくれる?あぁ……強くつかまれたのね。痕が残ってるわ。大変な目に遭ったのね」

俺は絵未子に訊ねた。

「自分で作った痕じゃないってこと、証明できる?」

「そうね……。他人から受けたもの、って判断できるわね。えぇと……」

「総務課の笹本碧さんだ」

「よ、よろしくお願いいたします」

碧は慌てたように頭を下げた。

そんな彼女に、絵未子は優しく、けれどきっぱりと言った。

「笹本さん、顔色が悪いわ。ここで横になっていなさい」
< 201 / 222 >

この作品をシェア

pagetop