続きは甘く優しいキスで
「いえ、でも、やっぱり仕事に戻らないと……」

まだ言ってる――。

こんな時だというのに、彼女は真面目さ全開でそんなことを言う。

俺は苦笑を浮かべた。眉間にしわが寄ったのが分かる。

絵未子は腕を組み、俺と同じように眉根を寄せた。

「そんな顔をしている人を、仕事に行かせられません。それに、他にも外傷だとかがないか、念のために診察させてほしいの」

俺も脇から碧に言う。

「先生の言う通りにして、ここで休ませてもらって?さっきも言った通り、今日はもう早退って伝えておくから、俺が迎えに来るまでここにいて。絵未子さん、彼女のこと、頼めるよね?それから、診察が終わったら診断書を書いてほしいんだ。彼女を迎えに来た時にもらうよ」

「了解。分かったわ」

「ありがとう。よろしく頼んだ。それじゃあ、碧。終業時間が過ぎた頃に迎えに来る。それまで大人しく休んでいるんだよ。分かった?」

「……うん。分かった」

ようやく諦めたように頷く碧を見て、俺はほっとした。彼女のことはもちろん心配なのだが、この後には大事な局面が待っている。傍についていてあげられないのは歯がゆいが、絵未子に任せておけば大丈夫だろう。

後ろ髪引かれるような思いで医務室を出ようとした俺を、絵未子が見送りに出る。

「もしかしてあの子、拓真君の彼女なの?」

声を潜めて言うその口元に、にやにや笑いが微かに浮かんでいるのが見えた。

「そうだよ。とても大事な人なんだ。だからよろしく頼むよ」

俺は真顔で言うと、足早に医務室を後にする。

さっさと決着をつけてやる――。

俺は拳をぎゅっと握りしめながら応接室へと向かった。

時間的にも大槻はすでに戻ってきているはずだ。
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