続きは甘く優しいキスで
ノックもそこそこにドアを開けると、やはり大槻の姿があった。太田を前にして険しい顔をしている。簡単にではあるだろうが、斉藤からすでにおおまかな説明を受けたものと想像できた。

「すみません。遅くなりました」

俺の顔を見るなり、斉藤が心配そうに訊ねる。

「笹本は?大丈夫なのか?」

俺は軽く顔をしかめて答えた。

「先生に診てもらっているところです。後は医務室で休むようにと言われてましたので、今日はもう早退させた方がいいと思います」

「そりゃそうだよな。あんな目に遭ったんだ」

俺は大槻に向き直って続けた。

「後で部長からもひと言、田中課長に口添えして頂ければ。それから、斉藤さん。色々と助けて頂いて、ありがとうございました」

俺は斉藤に感謝の気持ちを伝えようと頭を下げた。ところが顔を上げて見た斉藤は、困ったような顔をしている。

「いや、その、どういたしまして。ところで……」

斉藤は太田の方へちらりと目をやってから言った。

「少なくとも俺が見たことは、部長に話した。だけど太田はそれを認めるつもりはないらしい」

大槻は眉間にしわを寄せて俺を見た。

「太田君は、何かの間違いだと言っているんだ」

太田が大槻に訴えるように口を挟んだ。

「何度も言いますが、斉藤さんと北川さんの勘違いです。笹本さんに乱暴なんてしていません。たまたま手がぶつかったりしただけで」

頬を腫らし、唇を切った碧の様子を、俺は間近で見ている。それなのに、太田はすぐに嘘だと分かるようなことを平気で言っている。怒りがふつふつと湧いてきた。しかし感情的にはなるまいと気持ちを抑え込み、薄く笑顔を貼り付けた。
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