続きは甘く優しいキスで
「そうですか。太田さんは何もしていない、すべて偶然、偶発的なものだったと……。分かりました。では改めて私の方からも部長に説明しましょうか。斉藤さんは、もう席に戻って下さっても大丈夫です。本当にありがとうございました。あ、そうだ。斉藤さんにいくつかお願いが。一つは課の皆さんに何か聞かれたら、彼女は体調不良で、とでもうまく言っておいていただけませんか。課長には後で改めてお話します。それと、田苗さんにお願いして、ロッカーから笹本さんの荷物を取って来てもらいたいんです。鍵は総務課でスペアを保管していますよね?」

斉藤は俺が「碧」と呼ぶのを聞いている。恐らくはもう、俺たちの関係に気づいているだろう。特になぜと聞くこともなく、あっさりと俺の頼みを請け負ってくれた。

「色々了解した。荷物も用意してもらっとくよ。それは後で北川さんに渡せばいいんだな?他にも何かあったら、遠慮なく声かけて」

「はい。ありがとうございます」

軽く頭を下げた俺に、斉藤はやはり困惑気味の固い笑みを見せて応接室を出て行った。

少なくとも部長と近しい関係だってことには気づいたかな――。

心の中で苦笑しつつ斉藤を見送ってから、俺は改めて太田の前に立ち、それから大槻に訊ねた。

「斉藤さんからは、どこまで話を聞いたんですか?」

「資料室での一件について、だいたいのところはね。だけど本当なのかい?まだ信じられないんだ。まさかうちの社内でこんなことが起きるなんて」

半信半疑という顔の大槻に、俺はきっぱりと言い切った。

「残念ですが、本当です」

「証拠は?」
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