続きは甘く優しいキスで
「君はこれまでも、笹本さんに対して常習的に暴力的なことをしていたようじゃないか。その痕を俺の他にも見ている人がいるんだ。それでも自分のやったことを認めないと言うのなら、今俺の手元にある証拠や証言をすべて君の前に並べようか。それらを基にして君を訴えることもできるんだが」

太田がぎりっと歯を噛みしめる音が聞こえた。

彼は俺を射殺そうとでもするような目つきで睨んでいる。

「俺から笹本を奪ったくせに……。彼女を返せ」

奪った。返せ。

太田は自分本位の言葉を口にする。

自分がこれほどまでに冷たい声を出せる人間だったのかと思うほど冷ややかに、俺は彼に言った。

「奪うとか返せとか、彼女はモノじゃない。それにもう、彼女の心に君への想いは微塵も残っていない。そのことは、本当は君もよく分かっているはずだ」

太田は自分の膝をつかみ首を横に振った。指の関節が白くなっていた。

「そんなはずはない。俺は笹本を愛している。その気持ちは伝わっているはずなんだ」

彼女を傷つけたことを認め、謝罪の言葉の一言でも聞けるかと思っていたが、俺が甘かったのだろうか。太田はまだあがこうとしている。

「だったらどうして彼女は君から離れたがっているんだ?彼女は君のことを恐がっている」

俺は腕を組んで太田を見下ろし、清水から得ていた例の情報を持ち出そうと決める。

「ある筋から聞いたところでは、君は以前にもそうやって、交際相手にDVめいたことを行っていたんだってね。そうだ、ところで一つ聞きたいことがあったんだ。太田さん、ここに転職してくる前にいた会社は、どうして辞めたんですか?」
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