続きは甘く優しいキスで
太田は一瞬息を飲んだ後、弱々しい目で俺を睨みつけた。

「その話は今関係ないだろう」

大槻が顎を撫でながら俺に問う。

「その質問には何か意味があるのか?」

「あると言えばあります。太田さんが自分で答えられないのなら、先方に照会をかけてみればいいだけの話です。部長、後からでいいので、彼の前の会社の人事にでも聞いてみてもらえませんか?ストレートに聞いても答えてもらえないのなら……。例えば、うちの取引先でもあるA社の営業部長に、直接聞いてみてもらうのがいいかもしれませんね」

大槻が瞬きした。なぜ俺がそんなことを言い出したのかと不思議そうだ。

「A社の営業部長?彼は私の大学時代の後輩なんだよ。この一年くらいは直接連絡を取り合ってはいなかったが……。なんなら今すぐにでも電話してみようか」

そう言いながら、大槻はジャケットのポケットに手を入れた。

「そ、それは……」

太田の顔から血の気が失せた。

大槻は太田の表情を読み取るようにじっと彼を見てから、念を押すように俺に訊ねた。

「なぁ、拓真君。やっぱり本当なのか?太田君が笹本さんに乱暴を働いたっていう話は」

俺ははっきりと頷き肯定した。

「本当です。さっきも言った通り、証明だってできます」

「ちょっと待て。その呼び方……。そう言えば、確か電話でも……」

太田の表情が固まっている。

俺は大槻と顔を見合わせた。

大槻が「どうする?」とでも言いたげに目で問いかける。

俺は苦笑した。俺と会うのもどうせ今日が最後になるだろう。餞別代りに教えてやっても構わない。
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