続きは甘く優しいキスで
俺の表情から言っても構わないと悟った大槻が、おもむろに口を開いた。

「彼はね、事情があって一般社員としてここで働いているが、地位的には常務なんだ。ついでに言うと、私の甥でもある」

「えっ……」

太田の顔から血の気が引いたのが分かった。

「そんな大そうな事情でもないんだけどね」

いや、俺にとっては重大な事情だったな――。

俺は肩をすくめて大槻に苦笑を向けた。それから表情を引き締めて再び言葉を続ける。

「とにかく、さっきも言ったが、君が彼女にしてきたことはすでに聞いている。そのひどい状態を実際に見てもいる。言い逃れはもうできないんじゃないのか?公私は確かに別かもしれないけれど、だからと言って、プライベートで何をやってもいいというわけではないと思うのだけどね」

今や顔面蒼白状態の太田から大槻に目を移し、俺は言った。

「笹本さんの怪我は、一見してはそうひどいものではありませんでした。けれど、同僚への暴力というこの件は、解雇案件として処理できると思われます。また、過去のことではあるけれど、彼はうちの取引先の関係者の身内とトラブルを起こしている。そういった問題のある人間を雇用し続けるのは、会社的にどうなんでしょうか」

「ちなみにそのトラブルというのは?」

「先ほど話の中で触れたDVです」

「A社の部長に、と言ったのは、あそこのお嬢さんに関係があることなのか?そう言えば何年か前に、体調を崩しているという話を耳にしたことがあったが……」

「それ以上は俺の口からは……」

「分かった。A社の部長にはそれとなく聞いてみよう」
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