続きは甘く優しいキスで
「もちろんそれだけじゃないけどな。まずは早速、次の日曜日にデートしようぜ」

デート――。

そんなことをするのは、いったい何年ぶりだろう。私はどきどきしながら頷いた。

「次の日曜日ですね」

「まずは連絡先を交換しよう」

こうして、私たちのお試し交際が始まった。

会社では内緒にしたいと強く頼み込む私に、太田は不満そうだったが、結局最後には頷いてくれた。社内恋愛禁止の会社ではないけれど、まだお試しだし、周りに知られるのは恥ずかしいという思いがあった。

太田は優しかった。道を歩く時は他の人にぶつからないようにリードしてくれたし、友達に会うという時には、休日はもちろん平日の夜であっても、彼の都合がつけば必ずと言っていいほど迎えに来てくれた。メッセージのやりとりは毎日だった。返信が早くて、初めの頃はそれに驚いたほどだ。一緒に過ごす中で、太田の態度や言葉、眼差しからは、確かに私を愛してくれていることが伝わってきた。

だからなのか、過去の恋に対する私の想いは次第に変化していった。思い出すことはあってもそれは単なる思い出としてであって、そこに切ないような後悔や未練がましい感情がにじむことは、もうほとんどなくなっていたように思う。

そして、付き合いがさらに深まっていった時、太田が私を想ってくれているように、私も彼を愛するようになるはずだと思えるほどには、彼を好きになっていた。その期限の日を待つことなく太田の申し出を受けることにしたのは、私にとっては自然な流れだっただろう。こうして私たちのお試し期間は終了し、本当の恋人同士としての交際が始まった。
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