続きは甘く優しいキスで
「お願いです、もう一度だけチャンスを……」

土下座しようとする太田を止めて、大槻は憐れむような目を向けた。

「それをする相手は間違っているんじゃないのか?もう一度言う。自業自得と諦めて、自宅で大人しく連絡を待ちなさい」

最後の言葉を聞き分ける耳はあったのか、太田はうな垂れたまま力なく立ち上がり、よろよろと今にも倒れそうな足取りで応接室を出て行った。

それを見送ってすぐに、大槻は内線電話に手をかけた。太田の上司である経理課長にかけるのだろう。

「大槻ですが、応接室まで来てもらえますか。話があってね」

俺は太田が座っていた場所に腰を下ろして、深いため息をついた。ひとまずは終わった。それにしても大槻が最後まで話を聞いてくれてよかったと、改めて安堵した。

「伯父さんに止められないで良かったよ」

大槻は苦笑した。

「止めるも何も、すべて事実なんだろう?それならこの流れは当然だった。理由が何であれ、同僚に乱暴を働くような社員はいらないしな。しかし彼は最後まで笹本さんに詫びる言葉を口にしなかったな。ところで……」

大槻が言葉を切り、俺の顔をのぞき込む。

「さっき話の中で、笹本さんを奪ったとか返せとか、聞き捨てならないような言葉が聞こえたんだが」

「彼女とは最近付き合い始めたんだ。でもあいつから奪ったわけじゃない。色んな意味でそういうタイミングだったってだけだよ」

「ほほぉ……。それは一般社員として働くことにした話と何か関係があるのか?」

「さぁ、どうだったかな」

俺は笑って流す。信頼している伯父だからと言って、すべてを話すつもりはない。
< 210 / 222 >

この作品をシェア

pagetop