続きは甘く優しいキスで
「それにしても、笹本さんは大変な目に遭ってしまったものだ。今回のことで彼女がトラウマを負わないか心配だな」

「俺がいるから大丈夫だ」

きっぱりと言い切る俺を見て、大槻は少しだけ驚いたように目を瞬かせたが、すぐに笑顔になった。

「そうか、それなら心配ないな。……それからもう一つ」

「何?」

「さっき、彼女は婚約者になる人だとか言っていたが、そろそろ身を固めることを考えているのか?」

「それはまぁ……」

実際は彼女とはまだそんな話をする以前の状態だが――。

「彼女がうんといってくれるんなら、俺は彼女と結婚したいと思ってる」

「なるほど……。私も笹本さんにはよく仕事を頼むから分かるんだが、彼女は本当に優秀な社員でね。以前、秘書課にどうかって打診が来たこともあったくらいなんだ。だけどその時彼女は、自分には荷が重すぎると言って断ってしまってね」

「そんなことが……」

太田から守ることを決めた時、当初さっさと役員席に戻って彼女を秘書として傍に置こうかと考えたことがあったのだが……。

「そうだとすると、俺の秘書になってくれと言っても、断られる確率の方が高いか」

「さて、それはどうだろうね。つまりだ。もし結婚を考えているなら、その時はもちろん祝福するけれど、笹本さんにはできるだけ長く働いてほしいわけだ」

大槻の言いたいことがようやく分かって俺は苦笑する。

「だけどそれは彼女次第だろ」

「それはそうなんだけどね」

そんな話をしている所に控えめなノックの音が聞こえた。

俺たちは私語をやめて居住まいを正した。今の件について話さなければならない。

これでまた俺の素性が知られてしまうな――。

内心こっそり苦笑した。
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