続きは甘く優しいキスで
こんなことがあった後に休んでは、逆に変な噂になりそうだ。田中の気遣いは嬉しいが、週明けはあえて普通に出勤しようと思う。田中には後で電話を入れておこうと考えてから、ふと疑問が浮かぶ。

拓真君に伝言を頼んだということは、私たちの関係も知っているということ――?

私が何を思ったのか、拓真はすぐに悟ったらしい。

「部長と田中課長は知ってるよ」

「やっぱり……」

「話の流れ上、どうしてもね……。まずは帰ろう。色んな話はそれからだ」

拓真に促されて、私はベッドから下りて身支度を整える。

彼が私にコートを着せ掛けるのを、高階が微笑まし気に眺めていることに気づき私は赤面した。

「こういうの、いつもじゃありませんから……」

「そんなに焦って言い訳しなくても大丈夫よ」

高階の頬が緩んでいるのを見て、私は慌てて頭を下げて礼を言った。

「あの、ありがとうございました」

「ふふっ、お大事にね」

生暖かい目で高階に見送られて、私は拓真と一緒に医務室を後にした。

「あ、私のバッグ」

私は慌てて拓真の方へ手を伸ばした。バッグを彼に持たせたままだった。

しかし、彼はひょいと私の手からそれを遠ざける。

「俺が持つよ」

「自分で持つわ」

「いいからいいから」

拓真の口調から、私に持たせる気がないことを悟る。私は呆れ気味に、けれど素直に礼を言った。

「ありがとう」

「どういたしまして」

彼はにこっと笑い、自分の肩に私のバッグをかけ直した。

「車はもう待機してるはずだから」

「タクシー、手配してくれたの?」

「あぁ」

「素早いね」

「そう?」

どこか得意げに笑う拓真の顔を見たら、気持ちが和らいだ。

「拓真君、色々ありがとう」

「当然のことをしただけだよ」

彼は微笑み、私の手を握りしめた。

「うちに帰ろう」
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