続きは甘く優しいキスで
「それは……」

なぜか拓真は目を泳がせている。

「拓真君?」

私はずいっと彼の方に身を乗り出した。

すると諦めたように拓真は口を開いた。

「伯父と父にね、言ったんだよね。話の流れで」

「何を?」

「碧は俺の婚約者になる人だ、って」

「え?」

私は目を見開いた。

拓真が慌てた様子で弁解する。

「ごめん。本当なら先に碧の意思を確認すべきことだったのに……」

今の話もそうだけれど、色々と引っ掛かることがある。

「ちょっと待って、拓真君」

私は頭の中を整理するように、こめかみの辺りを揉む。

拓真が居住まいを正したのが目の端に見えた。

「伯父と父って、誰のこと?話の流れって言ったけど、いつそんな話をしたの?」

拓真は観念したように、ふうっとため息を吐き出した。

「伯父って言うのは、大槻部長。父って言うのは、ここの社長のこと」

「えっ……」

私は絶句し拓真を見つめた。見つめているうちに、医務室で高階がちらと口にしたひと言が思い出されてくる。確かあの時――。

「拓真君って、常務、なの?」

恐る恐る訊ねる私に、拓真は苦笑を浮かべつつ頷いた。

「まだ『仮』みたいなものだけどね。時機を見て話そうと思っていただけで、決して騙していたわけじゃないんだ。それは信じて」

「拓真君が私を騙すとは思わないけど、でも」

私は半ば呆然としながら、拓真の顔をしげしげと見つめた。

「本当に常務なの?本当に?あ、でもそうか。社長と名字が一緒だわ。そんなはずはないって思っていたから、考えたことも疑ったことも全然なかったけど……」
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