続きは甘く優しいキスで
頭の中はまだ混乱していたが、ひとまず頭に浮かんだ疑問を口にする。

「どうしてわざわざ管理部で、しかも私たち一般社員の中に混ざって働いているの?しかも『仮』って何?」

「一つずつ答えるね」

拓真は困ったように笑う。

「『仮』っていうのは、今はまだ実際の仕事は、専務である兄から習っているような状態だから。胸を張って『常務』だ『役員』だなんて申し訳なくて言えない」

「管理部にいるのは?」

拓真は一瞬迷うような顔を見せてから答えた。

「それは、碧がいたから」

「私が?……そう言えば」

拓真と約束をして二人で会い、色んな話をしたことがあった。

「あの日、今みたいなことを言っていたような気がするわね……。私がこの会社にいたからここに来た、だったかしら……」

「覚えてたんだね」

「そうね。だって、あまりにも印象的で衝撃的な理由に聞こえたから」

私はその時のことを思い出して苦笑いする。

「あの時は『転職』っていう言葉を使ったけれど、本当は違うんだ」

「どういう意味?最初から話してほしい」

私は拓真の目を覗き込んだ。

彼は私に一つ微笑みかけると、脚の上で両手を組んで、ゆるゆると話し始めた。

「去年あたりからずっと、常務の椅子が空いていたことは知っていた?その間は、専務である兄が兼任していたようなんだけど、さすがに手一杯になってしまったみたいでね。ついに俺に白羽の矢が立ってしまったんだ。俺としては、その時の仕事も生活も気に入っていたから、その話を受けるつもりはなくてずっと断ってた。だけど」

拓真は宙を見つめながら続ける。
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