続きは甘く優しいキスで
「さおりさんと偶然会って、君がこの会社で働いていることを知ってしまった。それで決めたんだ、父と兄を手伝うって。――これが、あの時言った『色々』の中身だよ」

私は息を詰めるようにしながら、彼の話に耳を傾け続ける。

「その時、一つだけ条件を出したんだ。常務に就任するのはいいけれど、数か月だけ、どういう形でもいいから一般社員として働きたいって。建前は会社の現状を知ること。裏の目的は、君に会って自分の気持ちにケリをつけること。いや、違うな。もしも可能性があるのなら君とよりを戻したい。そのための時間がほしい――それが本音だった。もちろん君に恋人がいて幸せでいるというのなら、その本音は胸の奥にしまったまま、今度こそ君への想いは捨てるつもりでいたんだ。だけど……」

拓真は言葉を切り、呆気にとられ言葉を失っている私に微笑んだ。

「碧は再び俺の恋人になってくれた。そしてこれが、話そうと思っていたことの全部だよ」

私はぱちぱちと何度か瞬きをしてから、自分の手元に目を落とした。

「……本当に、拓真君は常務なのね。そっか、部長って社長のご親戚だったものね。拓真君とも親戚なわけよね。だから、あの時の電話で『拓真です』って言ったのね」

拓真がそっと声をかける。声が不安そうだ。

「もしかして、じゃなくて、やっぱり引いてるよね……?」

「引いたというよりも、驚きの方が大きくて……。私がいたから転職したって聞いた時も驚いたのに、それが実は常務を引き受けることを決めた理由だったというのも……。ごめんなさい、やっぱりちょっと引いたかな」

私は困った顔をして小さく笑った。
< 218 / 222 >

この作品をシェア

pagetop