続きは甘く優しいキスで

4.飲み友達と

久しぶりに残業なく仕事が終わり、私はいそいそとした足取りで「リッコ」に向かった。

間もなく店に着くという時、携帯が鳴った。太田からだった。

「太田さん?お疲れ様です」

つき合い出したものの、私の口調はまだ丁寧語から抜け出していない。

―― 笹本もお疲れ様。今は帰り?

「うん。そうです。仕事の方は順調ですか?」

―― あぁ、無事に終わったよ。でもこれから接待だって。少しでも笹本の声が聞きたくて、電話してしまった。

太田はさらりと甘い言葉を口にした。

私は恥ずかしくなって口ごもる。

「……ありがとう、ございます」

―― あとはまっすぐ帰るんだよね?

「えぇと、今夜は友達と飲むことになったんです」

―― え?

ほんの一瞬だったが、太田の声が固まったように感じた。

「太田さん?」

―― あ、いや、なんでもない。その話は聞いていなかったなって、ちょっと思ったから。それって、女友達?

「え?そうですけど……」

太田の問いかけになんとなく違和感を覚えた。けれど、その正体をつかむ前に彼の優しい声が耳を撫でる。

―― 帰り、気を付けるんだぞ。そのお友達にもよろしく。

「はい。あ、そろそろお店に着くので、電話は切りますね」

―― そっちに戻ったら、出張土産を持って会いに行くよ。

「えぇ、分かりました。この後の接待、頑張ってください。

―― ありがとう。あ、呼ばれた。じゃあな。

太田が電話を切ったのを確かめて、私は携帯をバッグの中に仕舞った。
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