続きは甘く優しいキスで
「さて、どうだろな。価値観っていうの?そういうのは人それぞれ違うからな。ま、外野が口出しすることじゃないよな。余計なこと言って悪かったね。お、そろそろ碧ちゃんのアパートだな。……あれ?」

タクシーの進行方向に目を向けた清水が、怪訝な声を上げた。

「俺の気のせいじゃなければ、アパートの前に人が立っているように見えるんだけど。まさか不審者とかじゃないだろうな。こんな時間だぜ」

「えっ……」

私は眉をひそめて首を伸ばし、清水の視線を辿った。アパート前は駐車場になっていて、その奥が建物になっている。タクシーが近づくにつれて、その人影がはっきりと見えてきた。

「あれは……太田さん?」

驚いている私に清水が訊ねた。

「誰?碧ちゃんの知り合い?」

目を凝らしながら私は頷く。

「たぶん彼だと思います。だけど今夜は出張先に泊まるって言ってたはずなんだけどな……。何かあったのかしら」

まさか太田から連絡でも入っていたのかと、慌てて携帯を取り出した。画面に目を落とした瞬間、着信通知に気づきはっとする。

「しまった。お店に入った時にマナーモードにしていて、気づかなかった。バイブにはしてたんだけど……」

「周りが賑やかだったりすると、気づかない時、結構あるよね。仕方ないさ。それで、彼からは何か連絡でも入ってた?」

「えぇと。ん……?」

その通知を開いた途端、私は息を飲んだ。

「どうかした?」

「いえ、なんでもないです。大丈夫」

私は急いで携帯をバッグの中に戻した。胸の辺りがざわざわしている。

太田さんから電話が何回も入ってた――。
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