続きは甘く優しいキスで
「心配したんだぜ。何回電話をかけても出ないからさ」

「ごめんなさい。マナーモードにしていて、全然気づかなくて……」

「そうだったのか。できれば今度からは携帯は手元に置いといてほしいな」

「ごめんなさい……」

私の返答に太田はほっとしたように頬を緩め、そこでようやく清水に目を向けた。

「……それで、こちらの方は?」

太田の顔に怪訝な色を見て取って、私は慌てて説明する。

「えぇと、今日行ったお店の常連さんで、以前からの知り合いなんですけど、遅い時間になったからって、ここまでタクシーで送ってくれたんです」

「……そう」

太田はひどく低い声で短くつぶやき、私の腕を取って自分の傍らへ引き寄せた。

「あの、太田さん……」

人前でこんなに密着するなんて、と恥ずかしくなる。

しかし太田はそれを気にした様子もなく、丁寧な言葉づかいで清水に礼を言った。

「ご親切に、彼女を送って下さってありがとうございました。あとはもう、大丈夫ですので」

それに対して清水も穏やかな声で返す。

「それでは、俺はここで失礼しますね。――碧ちゃん、後で梨都子さんにメールでも入れておいてね。無事に帰った、って」

「はい、分かりました。今日はありがとうございました。おやすみなさい」

本当はタクシーの傍まで行って清水を見送りたかったが、太田の手が私を離さなかった。

清水は私たちの様子をちらりと見て、一瞬だけ何か言いたげな顔をしたが、結局は笑顔を浮かべて帰り際の挨拶だけを口にする。

「おやすみ。またね」

そう言うと清水は待たせていたタクシーに乗り込み帰って行った。
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