続きは甘く優しいキスで

5.心配か、それとも

清水を乗せたタクシーが交差点を曲がって行き見えなくなってから、私は太田に訊ねた。

「本当は今日、出張先に泊まる予定だったんですよね?」

「そのつもりだったけど、どうしても笹本の顔を見たくなってしまって。だから、接待が終わり次第戻ってきたんだよ」

そのセリフに嬉しいと思いながら、わざわざそこまでしなくてもいいのにと、彼の疲れが心配になる。

「とんぼ返りだなんて、大丈夫ですか?ゆっくりしてくればよかったのに」

太田は私の髪を弄びながら答えた。

「笹本の顔を見たら、疲れなんて一瞬で吹っ飛んだよ。――それよりも、今の人とは以前からの知り合いだって言ってたよな」

「えぇ、よく行くお店で友達になったんですよ」

「ふぅん、そうなんだ……」

拗ねたように言って、太田は私の背中に腕を回す。次の瞬間、私の唇をいきなり塞いだ。

「ん……っ」

外にいるのに、と私は突然のキスに驚き、彼の腕の中から抜け出そうともがいた。

私の抵抗にそれ以上キスをし続けることは諦めたらしく、太田は苦笑しながらのろのろと顔を離した。

「ごめん……。笹本は俺の彼女なのに、俺の知らない男と一緒にいたんだと思ったら、急に悔しくなって、心配でたまらなくなった」

私は彼の腕からそっと離れ、まだ拗ねた様子のその顔を見上げて言った。

「別に二人きりでいたわけじゃないし、知り合い同士、一緒のタクシーに乗ることなんて普通にあることですよね?それに、あの人はただの友達ですよ」

「そうかもしれないけど」

太田の手が私の頬に触れる。

「今日、飲みに行くっていう話を聞いた時は、男も一緒だなんて言ってなかったよな」
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