続きは甘く優しいキスで
太田は店の前の大通り沿いに車をつけた。

「ごめんなさい、ありがとう。行ってきます」

礼を言いながらシートベルトを外していたら、太田が身を乗り出してきた。私の肩を自分の方へ引き寄せて、いきなり首筋に歯を立て強く吸う。

「っつ……」

「シルシ。……行っといで。時間になったら迎えに来るから」

太田は私から離れると、そう言って微笑んだ。

「い、行ってきます……」

私は動揺しながら彼の車を降りて、店に向かった。

ちょうどその時、店の前に数人の男女の姿を見つけた。よく見ると、友人たちだった。その中にいた一人の男性が私に気づいて声をかけてよこした。

「もしかして笹本?」

「えっ、木田くん?すごく久しぶりだね」

彼とはゼミが一緒だった。割と仲良くしていたが、これまで特に会うことはなく顔を見るのは三年ぶりくらいだ。

「笹本、なんか綺麗になったよなぁ」

「からかわないでよ」

木田のリップサービスだと分かっていたから、私は軽く流した。

「いやいや、ほんとに。俺と付き合わない?」

「またまた。昔から冗談ばっかり言ってたけど、変わらないね」

笑いながらそんな軽口を交わしていたら、店から出てきた客とぶつかりそうになった。すんでの所で木田が私の腕を引いてくれたおかげで回避できたが、弾みで彼の胸に体ごとぶつかってしまう。

「ご、ごめんっ!ありがとう」

「おぅ、大丈夫か。しかしこれは役得だな。笹本の彼氏に知られたらやばそうだ」

木田の冗談に、私は俄かにはっとして振り返った。そこにまだ太田の車がウインカーを出して止まっていた。それを見た途端、心臓が痛くなりそうだと思うくらいに強く、鼓動がどくんと鳴った。

まずい――。
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