続きは甘く優しいキスで
「いやっ……」

太田は身じろぎする私の背を抱いた。

彼に抗い、私は脚を閉じようと力を入れる。

けれど彼はスカートの裾からもう一方の手を潜らせて、ショーツの中で指を滑らせた。

自分の意に反して声がもれる。

「あっ……」

「笹本がよそ見なんかするからいけないんだぜ」

「よそ見なんかしていない」

私は声を振り絞って反論した。けれど私の言葉は、太田の耳に届いていないようだった。

彼は私の体の柔らかい部分を、次々と執拗に強く吸っていった。ひとしきりキスマークを付けて満足したのか、ショーツの中に入れた指をさらに深い所で動かす。

「こんなに濡れてる」

太田の言葉に私は唇を噛んで声を押し殺し、恥ずかしさに顔を背けた。

彼はくすっと笑うと、私の耳に囁いた。

「今日はこれで勘弁してあげる。だけどこの疼きを鎮めてあげられるのは、俺だけだってこと、体で思い知って」

太田は優しい手つきで私の両手の拘束を解いた。私を抱き起こし、倒したシートを元に戻す。乱れた私の着衣を丁寧に直し、シートベルトをかけた。

「帰ろうか」

いつも以上に優しいその声に、私は怯えた。

これまで感じてきた違和感を「彼の愛ゆえ」と言い聞かせて自分を騙し、直視することを避け続けていた。けれどこの時改めて怖いと思う。そして確信した。こんなやり方は愛ではなく暴力だ。私のあれこれを把握しようとするのは、心配ではなく束縛だ。

別れたい――。

そのことを早く太田に伝えたいと思いつつも、きっかけをつかめないでいた頃だった。再会はないと思っていた学生時代の元恋人が、私の目の前に現われたのだ。
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