続きは甘く優しいキスで
「でも、私……」

私は口ごもりながら目を泳がせた。

その様子を見て察したのか、北川は残念そうに言った。

「もしかして、付き合ってる人がいる?いや、いない方がおかしいか」

付き合っている人は確かにいる。けれど、別れたいと思っている人だ。そのことを正直に言うべきかどうか迷う。

「それなら、二人きりで食事とかはまずいよね。俺の勝手を押しつけるようなことばかり言ってしまって悪かった。これからは同僚の一人として、よろしく頼むよ。戻ろうか」

北川は作ったような笑顔を作り、くるりと背を向けた。

そのままドアに手を伸ばそうとする彼を、私は止めた。

「待って」

北川は手を降ろし、振り返らないまま平坦な口調で言う。

「どうして引き留めるの?」

私は一歩北川に近づいて、彼の背中に向かって言った。

「私の話、怒らないで聞いてくれるんだよね……?」

北川がゆっくりと振り返った。

「怒ったりなんかしない。責めたりもしないよ」

「それなら今度、拓真君の都合のいい時に誘ってください」

私は手元に持っていたメモに自分の連絡先を走り書きして、彼に渡した。

「私の番号、もう消しちゃってると思うから……」

「彼氏は大丈夫なの?」

「大丈夫よ、たぶん……」

言葉尻がしぼむ。もしも太田にバレたらと思うと身がすくみそうになる。だけどこの機会に、北川と向き合って話をしたいと思ってしまった。そうすることで、私が原因となっている傷のようなものを、彼の心の中から取り除いてあげられたらいいと思う。

「無理、させてない?」

私は首を横に振った。

「無理なんかしてないから」

「そう……。それなら」
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