続きは甘く優しいキスで
メモに目を落とした北川の顔が綻んだ。

「ありがとう。嬉しいよ」

彼の笑顔が大きくなった。

「変わってないんだね」

「もしかして残っているの?私の番号」

彼はばつが悪そうな顔をした。

「気持ち悪い男だと思うだろうね。君と連絡が途絶えた時、心機一転と思って番号を変えたんだ。でも結局、何度も見て、何度もかけた君の番号は忘れられなくてね。もうかけることもかかってくることもないと思いながら登録して、今に至ってる」

彼はメモを大事そうに胸ポケットに仕舞いこんだ。

「あとで改めて連絡するよ」

北川はそう言いながら私の手を取ろうとした。

私はその手から逃げるように、一歩分ほど急いで後ろに下がって彼から離れた。

「今いるこの辺りはたぶん死角になっているかもしれないけど、部屋の角二か所には監視カメラがあるの。最初に伝えるのを忘れていたわ。ごめんなさい」

「えっ」

彼は伸ばしかけていた手を急いで戻し、苦々しい声で文句を言った。

「もっと早く教えてよ」

「ごめんなさい」

彼の慌てる様子につい笑い声がもれた。しかしすぐにそれを飲み込んで表情を取り繕い、私はドアに手をかける。

「戻りましょう」

北川を促して歩き出したが、すぐに立ち止まる。言い忘れていたことがあった。

「お願いがあるの。会社では必ず名字で呼んでほしい。もちろん私も名字で呼びます。それから、職場では私たちが知り合いだと分かるような素振りは、絶対に見せないで」

「碧ちゃんがそうしてほしいんなら、もちろんそうするけど……。何か理由があるの?」

「それは……」
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