続きは甘く優しいキスで
彼らの姿が見えなくなってから、私はふうっとため息をつき、携帯で時間を確かめた。このまま帰るにはなんとなく物足りない。太田からはまっすぐ帰れと言われたが、ゆっくりと飲み直してから部屋に帰りたい気分だった。

「リッコ、寄って行こうかな」

リッコは管理部門の皆が消えて行った繁華街の一角にある。しかし、会社の誰かと店で会ってしまうとは考えにくい。

「行ってみよう」

私はリッコに足を向けた。

店に着きドアを開けて入って行くと、池上の明るい声が出迎えてくれた。私を見るなり、おやっという顔をした。

「平日なのに、珍しいんじゃない?」

「今日はこの近くで会社の飲み会があったんです。だから寄ってみました」

池上に答えながらいつものようにカウンター席に向かい、私は足を止めた。

「……清水さん?」

私の声に清水は驚いたような顔を向けた。

「え、碧ちゃん?平日に会うなんて珍しいなぁ。元気にしてるのかなって思ってたところだったんだよ。久しぶりだ、一緒に飲もうぜ」

清水は自分の荷物をよけて、いそいそと私の席を作ってくれる。

私が腰を落ち着かせるのを見て、池上はオーダーを訊く。

「史也のボトルから飲む?それとも、他の作る?」

「それじゃあ……。オレンジフィズってできますか?」

「あぁ、大丈夫だよ。ちょっと待っててね」

「お願いします」

池上に軽く頭を下げてから、私は清水に向き直った。

「清水さんって、平日も来てることがあるんですね。まさか会うとは思わなかったなぁ」

「それを言うなら、碧ちゃんだって珍しいでしょ。会社の飲み会だって?」

「はい。幹事だったからあまりゆっくりできなくて。このまま帰るのもつまらないから、寄ってみたんです」
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