続きは甘く優しいキスで
「碧ちゃんべったりの彼氏は?」

「彼は課の二次会に行っちゃいましたから」

「一人で飲みに来たりして大丈夫なのか?」

「……私だって一人で飲みたい時もあるんです」

「ふぅん?」

清水の眉根が微かに寄せられたと思ったが、それはすぐに元に戻り、彼はにっと笑った。

「ま、いいや。久しぶりに碧ちゃんに会ったんだ。楽しく飲もうぜ。乾杯!」

他愛のない話をしながら清水とグラスを傾けあって、小一時間ほどたった。太田にメッセージを入れておくように言われていたことを思い出す。画面を開くのをためらいながら見た携帯には何の通知もなく、ほっとする。

今のうちにひと言送っておこう――。

そそくさとメッセージを打ち込み、送信した時だ。店のドアが開き、新たな客が入ってきた。

「いらっしゃいませ!」

テーブル席にいた客に注文の品を置き終えた池上が、大股歩きで出入り口へと向かう。

「お一人ですか?」

ドアの方で、そうだと低い声が答えている。

「カウンター席でもいいですか」

そう訊ねる池上の声がふっと途切れたかと思ったら、続いて驚いたように声のトーンが上がった。

「なんだよ、拓真君じゃないか!久しぶりだなぁ。元気だったか?よく来てくれた」

拓真君――?

耳に入ったその名前にどきりとした。そっと首を回して清水越しに見たそこにいたのは、北川だった。私は慌てて手元に目を落とす。胸がどきどきし始めた。

「碧ちゃん、どうした?酔っぱらっちゃった?」

「だ、大丈夫です」

笑ってごまかし、グラスに口をつけていると、マスターが私たちに声をかけた。

「史也、碧ちゃん、そこの席に一緒でもいいよね?」

「全然構わないですよ。いいよね?」
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