続きは甘く優しいキスで
私の表情から何を聞きたいのかを察したらしく、北川は苦笑を見せた。

「今野さんがだいぶ酔ってしまって、それで早々に解散となったんです」

「なるほど……」

今野はお酒が強いはずだったが、珍しいこともあるものだ。

清水は、会話の様子から私たちが知り合いだとすぐに気づいたようだ。早速身を乗り出すようにして北川に話しかけた。

「碧ちゃんとは、会社関係のお知り合いなんですか?」

北川は私をちらりと見てから、清水に笑顔で答えた。

「同僚なんです、同じ課の。私は北川と言います。よろしくお願いします。まだ名刺ができていなくて、お渡しできなくてすみません」

「いえいえ、お気遣いなく。そっか、碧ちゃんの同僚さんなんですね。俺は清水です。碧ちゃんとは飲み友達で、仲良くしてもらってるんですよ。ね、碧ちゃん」

急に相槌を求められて私は焦る。

「そ、そうなんです」

「笹本さんは、このお店には一人でよく来るんですか?」

北川は相変わらず穏やかな声で私に訊ねる。

単なる世間話をしているだけなのに、どきどきしてしまうのはどうしてだろう。

「そうですね。ここは居心地がいいので……」

「ねぇ、池上さん、北川さんとはどういう知り合い?やっぱ、店関係とか?」

池上は北川の前にグラスとナッツの入った小皿を置いた。

「俺が前にいた店に、よく来てくれていたんだ。もう何年も顔を見てなかったから、俺のことなんかもう忘れたのかと思ってたんだけどね。また会えて嬉しいよ」

「ごぶさたしちゃって、本当にすみませんでした」

北川が申し訳なさそうに池上に頭を下げた。
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