続きは甘く優しいキスで
「少なくとも北川さんの方は、碧ちゃんともうちょっと一緒にいたいような顔してたけどなぁ」

「そんなことないと思いますけど」

もしそれが本当なら嬉しいとは思うが否定する。

「そうかなぁ。碧ちゃんと親しげな俺のこと、『なんだこいつは』って思ってたみたいだぜ」

清水はまだそんなことを言っている。

私は肩をすくめた。

「気のせいですよ。それより、早くタクシー拾いましょ」

彼の先に立って大通りに出たところで、空車のタクシーが走ってきたのを発見する。

「お、グッドタイミングだな」

私たちは運よくつかまえたタクシーに無事に乗り込み、それぞれに行き先をドライバーに告げる。

車に揺られながら私は北川の顔を思い浮かべ、彼と池上の会話を思い出していた。だいぶ端折られた内容だったけれど、そこから北川の過去に思いを巡らせる。

私の知らないその数年間、彼はどんな時をどんな人たちと過ごしたのだろう。その間、どんな女性と出会ったのだろう。あんなに素敵な人だ、きっと周りの方が放っておかなかったと思う。彼は私との別れ方をずっと引きずっていたようなことを言っていたけれど、それは誰とも付き合わなかったという意味と同じではないはず。

彼は「前に進みたい」、「区切りをつけたい」と言っていた。その言葉から想像した時、私がそう思ったと同じように、北川もまた、改めて新しい恋に踏み出そうとしているのかもしれない……。

そう思ったら、胸の奥にひりひりとした痛みを感じた。
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