続きは甘く優しいキスで

8.嫉妬

翌朝出社すると、北川はすでに席についていた。目が合って、いつものように単なる同僚としての挨拶を交わす。昨日リッコで偶然会ったのは夢だったかと思えるような、互いに淡白な挨拶だった。

夕べ一緒に飲んだということもあるのか、北川は課の男性たちとますます打ち解けた様子を見せていた。アルバイトをしていた時も、周りに溶け込むのがとても早かったことを思い出し、彼の変わっていない一面を見つけて嬉しくなる。

その気持ちが顔に出てしまったのか、隣の席の田苗がにやにやしながら椅子を引っ張って寄ってきた。

「なぁに、何かいいことでもあった?」

田苗の言葉にどきりとする。

「えっ、何もないよ?」

いつも通り振舞えているはずと思いながら、私はにっこり笑う。

「そうかなぁ。今嬉しそうな顔してたから、これは何かあったのかな、と」

田苗は疑うように私の顔をしげしげと見ている。

結婚しちゃったからヒトの恋バナが聞きたくて――。

近頃はそれを口癖にしている田苗だが、私にはその餌食になるつもりは毛頭ない。

「残念ながら、田苗が期待するようなことはないんだよね。ご期待に沿えずごめん。あ、でも一つだけ、嬉しいことがあったと言えばあったかな」

「何なに?」

田苗の目が輝きを帯びた。

「今朝の占いでね、今日は一位だったんだ」

田苗の顔が一気にしぼんだ。

「……占い、ね。ま、確かに一位は嬉しいね。良かったね」

つまらなさそうな顔をして、田苗は自分の席に戻って行った。
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