続きは甘く優しいキスで
灯りをつけてマグカップを洗っていると、背後に人の気配を感じた。振り返ってどきりとし、にわかに緊張する。太田が立っていた。

「お疲れ」

「お疲れ様です」

顔が強張りそうになるのをごまかすように、ちょうど洗い終えたマグカップをふきんで拭きながら、私は彼に微笑みかけた。

「太田さんもコーヒー飲みます?」

「淹れるんなら、ついでにもらおうかな」

太田は私の隣に立ち、持っていたマグカップをシンクに置いた。

それを洗おうと手を伸ばした時、太田の腕が私の体に巻き付いた。

全身が強張る。

「やめてください。こんなところ、誰かに見られたりしたら……」

私は身をよじって離れようとしたが、太田にぎゅっと抱き締められて動けない。

「俺は見られても構わないよ。それよりさ、俺のメッセージは見てくれた?夕べ送ったのが、まだ既読になってないみたいなんだけど」

はっとして頭の中で言い訳を考える。

「ご、ごめんなさい。あの、夕べはお風呂の後すぐに寝てしまって。今朝は今朝で寝坊しちゃって急いでいたから。それでまだゆっくり見てなくて……」

「幹事役、大変だったろうからな。疲れたんだろう」

太田は優しい声で言いながら、私の耳に歯を立てた。

「っ……」

「よそ見するなよ」

「よ、よそ見って何のことですか?」

「お前、あの男のことが気になってるだろ」

太田が誰のことを指して言っているのか分かってはいたが、私は分からないふりをする。

「あの男?」

「北川のことだよ。まさか自分で気づいていないのか?夕べの飲み会、あの男ばかり見てたくせに」

「北川さん?それは私、幹事だったから……。他の皆んなと仲良くできているのかなって……」

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