続きは甘く優しいキスで
私の返事を聞くこともなく太田が給湯室を出て行った後、私はようやく息をついた。彼がいる間ずっと緊張していた。消耗したような気分で、全員のマグカップにコーヒーの粉を入れる。

後はお湯を入れて――。

ため息をつきながらポットに手をかけた時、再び背後に人の気配を感じてどきっとした。太田がまた戻ってきたのかと、全身を強張らせながら振り向いた。しかしそこにいたのは北川で、その姿を見た途端一気に緊張が解けた私は、うっかり彼の下の名前を呼んでしまう。

「拓真君――」

「笹本さん、約束、自分から忘れていますよ」

「あ……」

「それなら俺も素で話してもいいよね?」

狼狽える私に北川はくすっと笑い、くだけた口調になった。

「コーヒー、全員分だと重いんじゃないかと思って、手伝いに来たんだよ。俺、ここでは一番の新入りだしね。……ところで、何かあった?」

「え?」

北川は気遣うような目をして私を見る。

「なんだか様子が変だからさ」

私は自分を立て直し、にこっと笑う。

「そんなことないよ」

「本当に?さっきそこですれ違ったんだけど、太田さんもここに来てたんだよね?彼と何かあったのかな、って思ったんだ。だって……」

北川は私の目をじっと見つめた。

「太田さんとすれ違った時、普通に挨拶をしたんだ。それなのに彼から睨まれた。俺、彼から敵意を向けられるようなことは、何もしてないはずなんだけどね。……これって、どうしてだろうな」

「さぁ……」

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