続きは甘く優しいキスで
心当たりはあった。ついさっきの会話の中で、太田は漠然と私の気持ちに感づいているようだった。だから北川に対して、そういう目を向けたのだろうと推測できた。けれどこのことを話してしまったら、北川は私の気持ちに気づいてしまう。私と太田の問題に北川を巻き込んでしまうことにもなる。だから言えないと思った。

「偶然そう見えただけじゃないかな。太田さんって、確か目が悪いって言ってたから」

「ふぅん……」

北川は明らかに納得していない顔をしていた。しかし、諦めたようにため息をつく。

「分かった。今は色々なこと、聞かないよ。その代わり、夕べ会った時に言い損ねたことを今言わせて。この前も言ったけど、俺との時間を作ってほしい。できれば今夜にでも」

「今夜って……」

資料室での北川との約束はしっかり覚えているが、急すぎる。太田にも言ったが、今夜は友達との約束がある。

「ごめんなさい、今夜は先約があるから」

「……それって、太田さん?」

「まさか違うわ」

思いの外強い口調で否定してしまい、そんな自分に自分で驚く。

「大学時代の友達よ」

「そう。それなら……。来週は俺がだめだから、例えば再来週の月曜の夜はどう?」

「多分、空いていると思うけど……」

答えながら、二、三日前に太田と交わした会話を思い出す。その日は丸一日出張だから会えないと残念そうに言っていたから、その日ならきっと大丈夫だ。

「それなら、時間と場所は後でメッセージを入れる。いいかな?」

確認するように言われて、私はこくんと頷き小声で言った。

「分かった。待ってるから」

北川は嬉しそうに笑う。

「待ってて」

その笑顔に胸が高鳴ったが、鼻先をかすめたコーヒーの香りにはっとする。

< 66 / 222 >

この作品をシェア

pagetop