続きは甘く優しいキスで
「だ、大丈夫ですか?中止の件は分かりました。こっちは心配しないでください。このことは、北川さんにもちゃんと伝えますから。とにかくお大事に。早く治してくださいね」

―― ほんとに、ごめんね。この埋め合わせは必ずするから。ゴホッ。

「もういいですから。電話切りますね」

これ以上話しているのは辛そうだと思い、私はそそくさと電話を切った。ふうっとため息が漏れる。

「仕方ないんだけど……。せっかく浴衣着たのになぁ」

北川が到着したら、少しだけでも一緒にお祭りを見て回れたりしないかな――。

ちらとそんなことを思ったが、願望めいたその考えをすぐに頭の中から追い払う。彼女がいるからごめんなどと、もしも本人の口から直接聞くことになったら、元から自分が選ばれることはないと分かってはいてもダメージを受けそうだ。次から平気な顔をしてアルバイトに行けるか自信がない。

「……それよりも北川さんの連絡先、知らないんだった。でも、もうこの辺まで来てるはずよね。とりあえず待つしかないか」

ひとり言をつぶやきながら、この姿の私に北川は気づくのだろうかと、ふと不安になった。きょろきょろと辺りに目をやり、それらしき人物を探す。すると、私がいる鳥居まで一直線に向かって歩いてくる北川の姿が目に入った。私はほっとして手を振った。

「北川さん!」

私はその名前を呼び、彼の元まで足早に近づいていった。

「こんばんは」

自分の前に立った私に、彼はびっくりしたように目を見開いた。

「あ、えぇと、笹本さん?ごめん、ちょっと遅くなってしまって。あれ?さおりさんはまだ来ていないの?」

屋台や提灯の灯りがまぶしいのか、北川は目を細めるようにして私を見た。

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