続きは甘く優しいキスで
「今日はありがとう。楽しかったよ。祭りに来たのも久々だったし」

「私の方こそ、楽しかったです。北川さんと、こんなにお喋りで盛り上がるなんて、正直思っていなかった」

北川はくすっと笑う。

「笹本さんて、見た目と違って意外とはっきりモノを言う人なんだね。今日初めて知った」

「すみません。割とよく言われます。黙ってればね、って」

私たちは顔を見合わせて、あははと笑い合った。

「ところで、笹本さんは一人暮らし?それとも実家なの?」

「一人暮らしです。実家は県内でも北の方で」

「へぇ。俺は市内なんだけど、一人暮らししてる。そう言えば、ここまではどうやって来たの?」

「バスですけど……」

私ははっとして携帯で時間を確かめた。

「行ったばかりだ……」

ため息交じりの私のつぶやきを耳にして、北川が申し出る。

「車で来てるから、送っていくよ。駐車場までは少し歩くけど」

「そんな……悪いですから。大丈夫です」

「どうせ俺も帰るんだから、一緒に行こう。もしも悪いって思うんなら、今度バイトで俺が困ってたら助けて」

冗談めいた北川の言葉に、私はふふっと笑った。

「北川さんが困ってるところなんて、今まで見たことないですよ。……じゃあ、すみません。お言葉に甘えちゃいます」

「うん。駐車場、あっちね」

私を促し前を歩く北川の後に続こうとした時、下駄のつま先が石畳の端に引っ掛かった。そのままぐらりとバランスを崩す。
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