続きは甘く優しいキスで
数十分後、コンビニの建物脇に車を止めた北川は、私の方に顔を向けた。

「答えはまだもらえていないけど、笹本さんに俺のことをもっと知ってほしいから、今度デートしたい。だから、連絡先を教えてもらえないかな」

少しだけ迷ったが、気持ちはもう決まっている。あとは答えるタイミングだ。

連絡先を交換し終えてから、北川は私の表情をうかがいながら言う。

「下の名前で呼んでもいい?『碧ちゃん』って」

そう言って、彼が私の名前を口にした瞬間、今までには感じたことのなかった甘酸っぱさが胸の中に広がった。身内や友達などに呼ばれた時とは違っていて、嬉しいのにむずがゆい感じがした。その気持ちに後押しされるかのように、気づけば私の口からは、胸の奥に大切に仕舞い込んでいた言葉がするりとこぼれていた。

「……好きです」

自分で言っておきながら、その一言に胸の奥がキュッと鳴った。彼の顔を直視するのが恥ずかしくて、私は手元に目を落とした。そのまま彼の反応を待つ。

「碧ちゃん、今……」

北川の声がかすれて聞こえた。

「今のはほんと?彼女になってくれるっていう意味?」

「はい」

私は小さく頷いた。顔が火照る。

「嬉しいよ」

北川の声が間近で聞こえたと思ったら、耳元に柔らかい感触があった。驚いて思わず体を引いた。

「き、北川さんっ」

彼は照れたように笑っていた。

「ごめん、あんまり嬉しくて、つい。でも今日はこれ以上何もしないから、安心して」

「これ以上……。安心って……」

彼の言葉にうろたえながらもどきどきしてしまう。

「だから、アパートの前まで送らせて?」

北川はにこっと笑う。

その笑顔に負けて、私はこくんと頷いた。
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