続きは甘く優しいキスで

10.回想(後)

私たちが付き合い始めたことは、デザイン室の皆んなにあっという間に知られることになった。

はじめに気づいたのは、さおりだった。神社での撮影をドタキャンしたお詫びとして、私と北川を晩御飯に誘ってくれた時に、並んで座る私たちの様子を見ていてピンときたらしい。

自分たちは何も変わっていないつもりだったけれど、さおりが言うには「雰囲気が違う」のだそうだ。

「私、北川さんのファンにいじめられたりしませんよね」

そんな不安を口にする私に、さおりはぷっと吹き出した。

「そんなわけないでしょ。みんな、可愛いカップルが誕生したって思ってるよ。だから今度は生暖かい目で見られるようになるんじゃない」

「えぇっ。恥ずかしいなぁ」

「あはは。でもいいなぁ、学生カップルかぁ。初々しいよね。私にもそんな時代があったわ」

さおりは、昔の何かを懐かしむように遠い目をした。

食事が終わり、デザートもお腹に納め終えたところで、さおりが私たちを促した。

「そろそろ帰ろうか。ーーそう言えば今日、旦那が出張から帰って来るんだった」

ふと思い出したかのような口ぶりのさおりに、私たちは目を瞬かせた。

拓真は私と顔を見合わせてから、申し訳なさそうにさおりに言った。

「そんな日に俺たちと夕飯なんか食べてて、大丈夫だったんですか?」

「食べて来るって言ってたからね、いいのよ。碧ちゃんは、北川君が送って行くんだよね」

「はい、もちろん」

「よし、じゃ、出ようか」

さおりが伝票を持って立ち上がる。

私と北川は揃って頭を下げて礼を言った。

「ご馳走さまでした」

「どういたしまして」

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