続きは甘く優しいキスで
店の前でさおりと別れた後、私は北川に促されて彼の車の助手席に乗り込んだ。今日もこのままアパートに向かうのだろうと思っていたら、北川がためらいがちに私を見た。

「ちょっとだけ寄り道してもいい?行きたい場所があるんだ」

もう少し一緒にいられると思ったら嬉しくなった。どのみち急いで帰らなければならない理由も用事もないし、彼が行きたいと言う場所がどんな所なのか興味があった。

「北川さんが行きたい場所、私も行ってみたい」

「よし、じゃあ、行くよ」

そう言って北川は車を発進させた。

郊外に向かって二十分ほど車を走らせただろうか。彼が車を止めたのは、田園地帯の中を走る道路沿いだった。この一帯には田んぼや畑、果樹のハウスがあったりして、民家ともやや離れている。少し先には暗い空を背にして山の稜線が見えた。

少ない街灯の灯りを確かめながら、私は彼に訊ねた。

「ここ?」

「うん。ここら辺は建物がなくて空が広く見えるから、星が綺麗に見えるんだよ。天体観測が趣味ってわけじゃないけど、今夜は空が晴れているからきっと綺麗だろうなって思ったら、碧ちゃんと一緒に見たくなったんだ。ただの俺の自己満足だけどね」

北川は照れたように笑う。

「外に出てみてもいい?」

「もちろん」

北川はエンジンを切り、助手席側に回ってドアを開けた。

「足元に気をつけてね」

「うん。ありがとう」

私が外に出たのを確かめて、北川はドアを閉める。それから私のすぐ隣に立ち、夜空を仰ぎ見た。

「やっぱり今夜は天の川が綺麗に見えてる」

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