続きは甘く優しいキスで
「もう帰ろう。これ以上一緒にいたら俺、やばいよ」

何が――?

そう言ってからかおうと思ったけれど、やめた。今乗ろうとしている車は、ある意味密室だということに気がついて、緊張してしまう。

おずおずと車に乗り込んだ私が急に黙ってしまったのを、北川は不思議に思ったようだ。けれどその理由に思い当たったのか、彼は悪戯っぽい目をして私の顔をのぞき込んだ。

「今夜はもう帰るだけだから安心していいよ」

頭の中を見透かされた気がして、恥ずかしくなった。

北川はくすっと笑いシートベルトをかけようとしたが、不意にその手を止めた。

「俺とキスするの、嫌じゃなかった?」

どうしてわざわざそんなことを聞くのかと怪訝に思ったが、私は真面目に答える。

「嫌じゃなかったよ」

「それならさ。帰る前に、もうちょっとだけ進んだキス、したい」

北川が私の方へ身を乗り出した。

「進んだキスって?」

どぎまぎしながら訊ねると、北川は手を伸ばして私の頬を撫でた。

「もうちょっと長いキス、かな」

彼の顔が近づいてきて、私は目を閉じた。間近に彼の体温を感じたと思ったら、唇を挟み込まれるような感触が訪れて、私は息を止めた。

たいして長い時間ではなかったと思うけれど、彼の唇が離れたと思った時、私は胸を抑えながら深々と呼吸した。

「碧ちゃん、大丈夫?」

気遣う北川の声に私は慌てて答えた。

「うん、大丈夫。息をしていいのかが分からなくて……」

北川の目が見開かれた。

「……もしかして、キスするのとか、初めて?」

「うん、はじめて……。だって、北川さんが初めての彼氏だから」

こんな話、恥ずかしい……。
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