続きは甘く優しいキスで
「そう言えば、祭りの時、そんなことを言ってたね。がちがちに口閉じてるから、あれって思ってしまった。先走っちゃったね。ごめん」 

私は恥ずかしさの残る顔のまま、おずおずと北川に目を向けた。

「私こそごめんなさい。うまくできなくて……」

謝る私に彼は満足そうに言う。

「むしろ俺としては嬉しいかな。碧ちゃんのファーストキスの相手は、俺ってことになるわけだろ?」

北川は私の頬にちゅっとキスをして、はにかんでいる私に笑いかけた。

「今度こそ本当に帰ろう」

そんな夜の出来事以降、私たちの交際は互いの部屋を行き来するまでに進展していった。私も彼を下の名前で呼ぶようになっていた。北川――拓真の言う「進んだキス」も少しは上手にできるようになった。しかし、私たちの関係はまだキス止まりだった。

その先の知識はそれなりにあったけれど、自分のこととして現実感を持って考えることができなかった。いつかは――とは思っていたけれど、そのいつかが私に訪れるのは、まだまだ先のことだと思っていた。拓真の優しさがあまりにも心地よくて、私は彼の傍にいることだけで満足していたし、それは彼も同じだと思っていた。けれど実はそこには、拓真の忍耐があったということに、私は気づいていなかった。

アルバイトが一緒になった日は、どちらかの家で一緒に夕食を取ることが当たり前になっていた。

その日もデザイン室の皆んなから、微笑ましげな目を向けられつつ、私たちは雑務をこなして一緒に帰宅した。今夜は拓真の部屋で一緒に映画を見ようということになっていた。彼の持つテレビは画面が大きくて、映画などを見るのにちょうどいいのだ。

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