続きは甘く優しいキスで
「碧ちゃん、何食べたい?」

部屋に入るなり拓真に訊ねられて、私は慌てた。彼と付き合い出してから知ったのだが、拓真は料理が好きだった。悔しいけれど、私よりも拓真の方が上手で、私の出番はいつもほとんどなかったが、こう言ってみる。

「今夜は私が作るよ」

「いいからいいから。座ってて」

案の定拓真はそう言って、私の背中を押しながらラグのある方へ促した。

「で、何がいい?」

にこにこと重ねて訊ねられ、私は諦めて答えた。

「それじゃあ、オムライスが食べたいな」

「オッケー。待っててね」

拓真はキッチンに入り、手際よく料理を始めた。

「急いで作ったから味は保証できないけど」

「そんなことない。絶対に美味しいはず。いつもありがとう」

私は彼の隣に座って、用意してくれた夕ご飯を味わった。いつもながら美味しい。食後は、自分がやるからという拓真を制して後片付けをする。

その後私たちは床に並んで座って映画を見た。見終わって、ふと彼の部屋の時計が目に入る。だいぶ遅い時間だったが、泊まって行くという発想はまったくない。

「私、帰るね」

バスの運行時間はもう終わっている。いつもは送ってもらっているが、今日はさすがに悪いと思う。学生には痛いけど、タクシーを拾おう――。

「待って、送って行くよ」

「もう真夜中だから申し訳ないよ。タクシー拾うから」

「ダメだってば。危ないだろ」

「もうっ、拓真君は心配性なんだから」

私は笑って立ち上がった。

「待ってってば!」

引き留める拓真を安心させようと顔を向けた途端、彼に腕を引かれてしまい、そのままクッションの上にぽすんとお尻が落ちた。

「捕まえた」

くすっと笑い、拓真は私の体に腕を回す。
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