続きは甘く優しいキスで
そしてやってきた当日。私は緊張と期待と少しの怯えを胸の中に抱えながら、その日一日を過ごした。

久しぶりにスムーズに仕事が終わり、さて北川はどうかと目をやれば、斉藤と一緒になってパソコンの画面を睨んでいる。

もう少しかかるのかしら――。

気にはなったが、斉藤がいるのなら私が心配する必要はないと思い直す。

とにかく会社を出ようと思い、私はデスク周りを片づけた。約束の時間まではだいぶ余裕があるが、アパートに一度戻れるほどでもないから、どこかで時間を潰そうと考える。私は席を立ち、課のメンバーに帰りの挨拶をした。

「お先に失礼します」

「お疲れ様。……そうだ、言い忘れてた」

急に何を思い出したのか、田中に引き留められた。

「急で大変申し訳ないんだけど、今週の木、金、支社に行ってきてほしいんだ。予定しておいてもらえるかな?」

急な話だとは思ったが、どうせ断るという選択肢などない。

「私一人でですか?」

「いや、今回は都合が合えば北川さんも一緒にって、部長から言われてる」

「北川さんも、ですか……」

どうしてわざわざと怪訝に思ったが、無表情で通す。

「あそこの総務担当してる人、最近採用した人でしょ?どうも引継ぎがうまく行っていなかったらしいんだ。電話とかメールで教えたりしてたと思うけど、直接行って事務指導してきてもらいたいと思ってさ。実はこれ、なかなか不備が改善されないっていうんで、向こうの支社長から先週末の夜、部長に連絡があったんだって。ぜひ本社から誰か来て、教えてやってくれないかって。それでさ、北川さんにも一緒に行ってもらって、この機会に支社の業務の様子を見てもらうといいんじゃないかって、部長が言うんだ」
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