続きは甘く優しいキスで
「はぁ……」

田中の説明を聞いた後も、北川の同行については腑に落ちない気分だったが、それはさて置き、出向いての指導は今後のためにいい機会だ。

「確かに直接話した方が教えやすいですし、相手も分かりやすいですよね。私でお役に立てるのなら喜んで」

「こっちは今月の締めが終わってるし、直接一緒に仕事しながら教えて来てもらえれば、その分来月からは不備が減るだろうしね」

「ある意味、私、責任重大ですね。でも分かりました。予定しておきます」

「……というわけで、北川さんも、予定しておいてくれる?明日三人で簡単に打ち合わせしよう」

突然話を振られた格好になった北川は軽く目を見開いたが、すぐに真顔になって頷いた。

「はい、分かりました」

北川は席についたまま私に視線を当てて微笑んだ。

「笹本さん、よろしくお願いします」

私はその視線から逃げるようにして、慌てて頭を下げる。

「こちらこそお願いします」

「悪かったね。帰り際にする話じゃなかったな。じゃあ、また明日。お疲れ様」

「お先に失礼します」

もう一度田中や同僚たちに会釈して顔を上げた時、北川と目が合った。

後で――。

彼の唇が言葉を小さく刻んだように見えて、どきりとする。太田がいなくて良かったと安堵しつつオフィスを出た。ロッカールームで身支度を整えながら、昨夜の太田とのメッセージのやり取りを思い出す。

太田とは先週からプライベートで会っていない代わりに、メッセージのやり取りをしていた。この土日は私が実家に行く用があったから会わなかった。また、経理課は今、上半期の決算が絡んだ上での繁忙期のため、毎日残業が続いているようで、太田曰く「平日に会う余力が残っていない」らしい。それは私には好都合でしかなかったが。
< 89 / 222 >

この作品をシェア

pagetop