続きは甘く優しいキスで
「ねぇ、真人。ジントニックが飲みたい」

「オッケー。碧ちゃんは?」

「私も梨都子さんと同じのをお願いします」

「あれ?今日は飲んでなかったの?」

「違うの。二杯目は梨都子さんが来てから頼もうと思って、先にデザート出してもらってたんです」

私は自分の目の前に置かれた食べかけのプリンを目で示す。

「そうだったんだ。これ、美味しいでしょ?私の好きなタイプのプリンなんだ」

「そうなんですね。毎回なんでも美味しいけど、今回のはなんていうか、懐かしい感じの味がする。ほっとする美味しさって言うのかな」

「今の碧ちゃんの絶賛コメント、聞こえた?」

梨都子は目を輝かせて池上を見上げた。

池上は嬉しそうに笑っている。

「碧ちゃん、いつも美味しいって言ってくれてありがとね」

「美味しいから美味しいって言ってるだけですよ」

そうやって小一時間ほど、梨都子と、時には池上も交えてお喋りしながら飲んでいたが、ふと時間が気になった。

「今何時かな」

時刻を確かめるためにバッグの中から携帯を取り出した。手帳型のカバーを開いた時、床にひらりと落ちたものがあった。

「あ……」

太田の名刺だった。

床に手を伸ばした私よりも先に梨都子がそれを拾い上げて、目の前にかざした。

「名刺?」

「それは……」

梨都子はぴらっと裏を返し、しげしげと見つめている。それから私を横目で見て、意味ありげに微笑んだ。

「碧ちゃんたらスミに置けないじゃないの」

「そういうのじゃないから。返してくださいよ」

私は手を伸ばして、梨都子の手から名刺を取り返そうとした。
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