続きは甘く優しいキスで
会社を出てからの私は、ホテル近くのカフェに入って少し時間を潰した。その後、北川から指定されたホテルに向かった。

ホテルに到着し、少々戸惑った。こんな高そうなホテルとは今まで縁がなかったから、どきどきしながら自動ドアの内側に足を踏み入れた。入ってすぐ左手にあるロビーに足を向け、ひとまず端の方のソファに腰を下ろす。約束の時間まではあと十五分ほど。少し早く着いてしまったかと思いながら携帯を取り出して、彼からの連絡が特に入ってはいないことを確かめた。

今夜北川と会う目的は、数年前の出来事に互いに向き合うことにあった。彼は私のことを怒っていないと言ってくれたけれど、話したらやっぱり腹を立てるのではないか。そう思うとますます緊張して、気分も重くなってくる。

第一声はどうしようかと考えながら足元のカーペットに目を落としていたら、そこに男物の靴先が入り込んできた。はっとして顔を上げたそこには北川が立っていた。

彼は嬉しそうに口元に笑みを刻んでいた。

「来てくれたんだね。ありがとう」

北川につられたように、ぎこちなかったけれど私も笑みを浮かべる。

「約束ですから。お仕事、お疲れ様でした。無事に終わったんですね」

「あぁ。約束の時間に遅れるんじゃないかとはらはらしたけど、斉藤さんがパパッとやっつけてくれてね。総務の仕事もなかなか大変だね」

おどけた口調の北川に私はつい笑い声をもらした。

「ふふっ。仕事はなんでも大変でしょ」

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