続きは甘く優しいキスで
「え?」

私は目を瞬かせながら拓真を見つめた。その真剣な顔から目を逸らせなくなる。

「俺は君が好きだよ。あの後まったく恋愛をしなかったとは言わない。だけどなかなか続かなくてね。どうしてなんだろうと思っていたんだけど、最後につき合った人から言われてはじめて気がついた。『あなたが見ているのは、私じゃない誰かだ』って。そう言われて腑に落ちたんだよね。もう二度と会えないと思いながらも、俺は結局君を忘れられないでいたんだな、って」

穏やかな声で話す彼の言葉のせいか、鼓動がうるさいほどに鳴っている。

「碧ちゃん、さおりさんと連絡取ってたんだよね?」

「えぇ。たまに、だけど」

「さおりさんって、今もフリーカメラマンやってるでしょ。去年だったかな、こっちの友達の結婚式に招待された時に、さおりさんに会ったんだ。仕事の依頼を受けたんだって言ってた。その時に少しだけ話す時間があってね。碧ちゃんが今どこで働いているのかを教えてもらったんだ」

「そんなこと、さおりさんから今までひと言も聞いてない……」

「俺が口留めしてたからだと思う。約束を守ってくれたんだね。それで俺、碧ちゃんがここで働いていることを知ったんだ。彼女、うちの企画部にも出入りしてるんだろ?」

「そうね……」

大学を卒業してから実はしばらくの間、さおりとは疎遠になっていた。しかし数年前のある時社内で偶然会い、それから再び連絡を取り合うようになったのだった。

「それでね。色々あって、ここへの転職を決めたんだ」

私は呆気にとられて拓真を見た。「色々あって」の「色々」も気にはなったが、それ以上に私の心を捉えたのが……。

彼がうちの会社に来たのは私がいたからということ?

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