このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
3 副団長のお世話係
フィリスはアルバと部屋を出ると、支部の後方エリアへと案内された。そこでひとりの侍女を紹介してもらうと、アルバは仕事があると言いその場からいなくなった。
「私はナタリアよ。よろしくね。えーっと……」
「フィリスと申します」
「フィリスね。改めて、これから同じ場所で働く仲間として仲良くしてちょうだい。私もここへ来てまだ二年くらいだから、そんなにかしこまらないでいいわ」
支部は魔法騎士団の寮にもなっており、ナタリアはそこで働く侍女のようだ。誰かの専属というわけでないらしい。オレンジ色の長い髪を太めの三つ編みでひとつにまとめ、白い肌にうっすら浮かぶそばかすが可愛らしい女性だ。
話をすると、年齢はフィリスのひとつ上だと判明し、出会ってすぐなのに親近感が沸いた。
「アルバ団長に聞いたわ。あなた、リベルト副団長の専属になったらしいわね」
長い廊下を歩いていると、ナタリアがそう言って哀れむような眼差しをフィリスに送った。
(そうか。お世話係って、専属侍女みたいなものよね)
といっても、実家は専属を雇うお金はなかったため、専属侍女がなにをするかはよくわかっていない。
「ここがあなたの部屋よ。クローゼットの中に制服があるから、給仕中はそれを着ること」
案内された部屋は思ったよりも広めの部屋だった。ひとりで寝泊まりするにはじゅうぶんな広さだ。
「この後方フロアは基本的に使用人たちの生活フロアだから、晩餐は一緒に食堂でとりましょう。それまで今日は休んでていいって」
「え? リベルト様へ挨拶しに行かなくていいんですか?」
「副団長は早朝から遠征で魔物討伐に行っているわ。帰ってくるのは明後日よ」
(……任務があるから、急に帰ったってことね)
そうだとしても、窓から出なくたっていいのに。
「明日は魔法騎士団支部内の案内や、侍女の仕事内容を教えるわね。……とはいっても、副団長の専属となると、やることは変わってくると思うけど。その辺は副団長と相談して?」
「わかりました」
「じゃあ、今日から二日間、一緒に頑張りましょ!」
ナタリアは胸の高さに拳を掲げ、にっこりと笑った。優しそうな同僚がいるのは心強い。フィリスも同じポーズをして微笑みを返す。
――それから二日間、フィリスはナタリアと一緒に仕事の研修を受けた。支部内は広くてすべての部屋は当然覚えられなかったが、地図をもらったため、慣れるまではそれを見れば大丈夫だろう。
ちなみに侍女の制服は、動きやすい柔らかな生地を使用した、上下紺色の制服だ。上着はウエストを絞ったデザインで、深紅の細めのリボンは可愛らしすぎずシックで上品な印象を持つ。
スカートは膝丈で、プリーツが入っている。裾に刺繍が入っており、制服にも細やかなこだわりを感じられた。
清潔感を重視された白いエプロンにはポケットがついており、道具を持ち運ぶのに便利そうだ。
(私の持っている私服より可愛い!)
初めて袖を通したとき、フィリスは感動した。
(制服があるのはありがたいわ。私服を増やさなくて済むものね)
高給が確定しているというのに、フィリスの節約精神は続いたままだ。ほとんどを実家に仕送りするつもりでいるため、できるだけ無駄遣いはしたくないという考えからだろう。
「フィリス! 副団長率いる部隊が早めに帰還したみたい! ほら、門の前までお出迎えよ!」
二日後。リベルトが支部へ戻って来た。
ナタリアに腕を引っ張られるようにして、フィリスは門の前へと向かった。
そこには、団員を率いて真ん中を堂々と歩く黒髪の男性――リベルトの姿があった。今回はきちんと起きているおかげで、前よりも表情が見やすい。長めの前髪が少し邪魔だが、紫色の瞳が開いているのは確認できた。
「よく無事に戻ったリベルト! まぁ、心配してなかったがな。それで、お前の新しい世話係を紹介したいんだが――」
入口を塞ぐように仁王立ちしていたアルバが、リベルトに労いの声をかける。その流れでフィリスを紹介する流れだったが、リベルトはなにかをぶつぶつと呟きながらアルバとフィリスの間を無理矢理こじ開けるようにしてさっさと中へ入ってしまった。
「お、おいリベルト! 話を聞かんか!」
「無駄ですよ団長」
「……エルマー」
エルマーと呼ばれる男性は、肩まである灰色の髪をかき上げながら呆れた表情を浮かべた。後ろに控えるほかの団員たちも、エルマーの言葉にうんうんと頷いている。
「まさか、出たのか?」
「はい。出ました」
(……なにが?)
アルバの隣で、フィリスは黙って会話を聞く。
「新種の魔物。しかも大型です」
「……マジか」
「その魔物もほかの魔物も、ほとんどリベルトがひとりで倒しました。新種の大型魔物が出現したときは全員焦りましたが、彼のおかげで助かったのは事実です。ですが、リベルトはそれからずっと大型魔物の倒し方やなんの魔法が有効だったかをまとめるのに必死で一睡もしていません。テントを張っても深夜に外を動き回り急に魔法を放ったり、そのせいでべつの魔物を呼びよせたり……散々でした」
帰り道もぶつぶつうるさく、ゆっくり休めなかった。次第にペンを走らせる音にすらイライラしたと、エルマーは好き放題言っている。そんな彼を誰も止めないのは、ほかの団員たちも同じように思っていたからなのか。
「よく耐えてくれたなエルマー。それにみんなも」
「本当に、リベルトはどうかしてますよ。付き合いきれない」
疲労を滲ますエルマーがため息をついて顔を上げると、フィリスと目が合った。
「……彼女は?」
「ああ、新しい世話係だ」
「うわぁ……そうなんですね」
目を細め、あからさまに渋い顔をされる。
「は、初めまして。フィリスと申します。今後は魔法騎士団でお世話になります」
「こちらこそ。私はエルマーといいます。ここでは指揮官を務めています」
後ろに並ぶ団員の肩章が銀色なのに対して、エルマーはアルバとリベルトと同じ金色だ。偉い人だとは思っていた。指揮官と言うだけあって、知的な雰囲気を醸し出している。背はそんなに高くはないが綺麗な顔をしており、モテるだろうなとフィリスは思った。
「フィリスさん。せいぜいあの奇人の世話を頑張ってくださいね」
エルマーはそう言って、フィリスに同情の眼差しを送った。
「私はナタリアよ。よろしくね。えーっと……」
「フィリスと申します」
「フィリスね。改めて、これから同じ場所で働く仲間として仲良くしてちょうだい。私もここへ来てまだ二年くらいだから、そんなにかしこまらないでいいわ」
支部は魔法騎士団の寮にもなっており、ナタリアはそこで働く侍女のようだ。誰かの専属というわけでないらしい。オレンジ色の長い髪を太めの三つ編みでひとつにまとめ、白い肌にうっすら浮かぶそばかすが可愛らしい女性だ。
話をすると、年齢はフィリスのひとつ上だと判明し、出会ってすぐなのに親近感が沸いた。
「アルバ団長に聞いたわ。あなた、リベルト副団長の専属になったらしいわね」
長い廊下を歩いていると、ナタリアがそう言って哀れむような眼差しをフィリスに送った。
(そうか。お世話係って、専属侍女みたいなものよね)
といっても、実家は専属を雇うお金はなかったため、専属侍女がなにをするかはよくわかっていない。
「ここがあなたの部屋よ。クローゼットの中に制服があるから、給仕中はそれを着ること」
案内された部屋は思ったよりも広めの部屋だった。ひとりで寝泊まりするにはじゅうぶんな広さだ。
「この後方フロアは基本的に使用人たちの生活フロアだから、晩餐は一緒に食堂でとりましょう。それまで今日は休んでていいって」
「え? リベルト様へ挨拶しに行かなくていいんですか?」
「副団長は早朝から遠征で魔物討伐に行っているわ。帰ってくるのは明後日よ」
(……任務があるから、急に帰ったってことね)
そうだとしても、窓から出なくたっていいのに。
「明日は魔法騎士団支部内の案内や、侍女の仕事内容を教えるわね。……とはいっても、副団長の専属となると、やることは変わってくると思うけど。その辺は副団長と相談して?」
「わかりました」
「じゃあ、今日から二日間、一緒に頑張りましょ!」
ナタリアは胸の高さに拳を掲げ、にっこりと笑った。優しそうな同僚がいるのは心強い。フィリスも同じポーズをして微笑みを返す。
――それから二日間、フィリスはナタリアと一緒に仕事の研修を受けた。支部内は広くてすべての部屋は当然覚えられなかったが、地図をもらったため、慣れるまではそれを見れば大丈夫だろう。
ちなみに侍女の制服は、動きやすい柔らかな生地を使用した、上下紺色の制服だ。上着はウエストを絞ったデザインで、深紅の細めのリボンは可愛らしすぎずシックで上品な印象を持つ。
スカートは膝丈で、プリーツが入っている。裾に刺繍が入っており、制服にも細やかなこだわりを感じられた。
清潔感を重視された白いエプロンにはポケットがついており、道具を持ち運ぶのに便利そうだ。
(私の持っている私服より可愛い!)
初めて袖を通したとき、フィリスは感動した。
(制服があるのはありがたいわ。私服を増やさなくて済むものね)
高給が確定しているというのに、フィリスの節約精神は続いたままだ。ほとんどを実家に仕送りするつもりでいるため、できるだけ無駄遣いはしたくないという考えからだろう。
「フィリス! 副団長率いる部隊が早めに帰還したみたい! ほら、門の前までお出迎えよ!」
二日後。リベルトが支部へ戻って来た。
ナタリアに腕を引っ張られるようにして、フィリスは門の前へと向かった。
そこには、団員を率いて真ん中を堂々と歩く黒髪の男性――リベルトの姿があった。今回はきちんと起きているおかげで、前よりも表情が見やすい。長めの前髪が少し邪魔だが、紫色の瞳が開いているのは確認できた。
「よく無事に戻ったリベルト! まぁ、心配してなかったがな。それで、お前の新しい世話係を紹介したいんだが――」
入口を塞ぐように仁王立ちしていたアルバが、リベルトに労いの声をかける。その流れでフィリスを紹介する流れだったが、リベルトはなにかをぶつぶつと呟きながらアルバとフィリスの間を無理矢理こじ開けるようにしてさっさと中へ入ってしまった。
「お、おいリベルト! 話を聞かんか!」
「無駄ですよ団長」
「……エルマー」
エルマーと呼ばれる男性は、肩まである灰色の髪をかき上げながら呆れた表情を浮かべた。後ろに控えるほかの団員たちも、エルマーの言葉にうんうんと頷いている。
「まさか、出たのか?」
「はい。出ました」
(……なにが?)
アルバの隣で、フィリスは黙って会話を聞く。
「新種の魔物。しかも大型です」
「……マジか」
「その魔物もほかの魔物も、ほとんどリベルトがひとりで倒しました。新種の大型魔物が出現したときは全員焦りましたが、彼のおかげで助かったのは事実です。ですが、リベルトはそれからずっと大型魔物の倒し方やなんの魔法が有効だったかをまとめるのに必死で一睡もしていません。テントを張っても深夜に外を動き回り急に魔法を放ったり、そのせいでべつの魔物を呼びよせたり……散々でした」
帰り道もぶつぶつうるさく、ゆっくり休めなかった。次第にペンを走らせる音にすらイライラしたと、エルマーは好き放題言っている。そんな彼を誰も止めないのは、ほかの団員たちも同じように思っていたからなのか。
「よく耐えてくれたなエルマー。それにみんなも」
「本当に、リベルトはどうかしてますよ。付き合いきれない」
疲労を滲ますエルマーがため息をついて顔を上げると、フィリスと目が合った。
「……彼女は?」
「ああ、新しい世話係だ」
「うわぁ……そうなんですね」
目を細め、あからさまに渋い顔をされる。
「は、初めまして。フィリスと申します。今後は魔法騎士団でお世話になります」
「こちらこそ。私はエルマーといいます。ここでは指揮官を務めています」
後ろに並ぶ団員の肩章が銀色なのに対して、エルマーはアルバとリベルトと同じ金色だ。偉い人だとは思っていた。指揮官と言うだけあって、知的な雰囲気を醸し出している。背はそんなに高くはないが綺麗な顔をしており、モテるだろうなとフィリスは思った。
「フィリスさん。せいぜいあの奇人の世話を頑張ってくださいね」
エルマーはそう言って、フィリスに同情の眼差しを送った。