このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
フィリスはアルバと一緒に、改めてリベルトに挨拶しに行くことになった。
「フィリスくん。今日から制服にこれをつけてもらえるか」
リベルトの部屋へ向かう途中、アルバにバッジを渡される。それはリベルトが忘れていったのと同じ紋章が入ったバッジだった。
「本来、使用人が身に着けることはないんだが、君は普通の侍女ではなくリベルトの専属だ。その区別を周囲がつけられるようにするために、胸元につけておいてくれ」
「なんだか恐れ多いですが……そういうことならわかりました」
「本当はリボンや、男性ならばネクタイで区別分けさせるんだがな。主人が自分のカラーと呼べる色のものを渡して、専属の証とするんだ。だがまぁ……リベルトがそんなのを用意する男ではないのはわかるだろう」
「はい。そもそもリベルト様は専属を望んでないのですよね……?」
「そうなんだよ。こっちが勝手にやっていることだから、あまり強制しづらくてね」
互いに眉を下げて笑い合っていると、リベルトの部屋に到着した。
「あいつは鍵も基本かけていないからな。勝手に開けてしまおう」
アルバは呼びかけもせずに扉を開けると、部屋の奥で机に向かうリベルトの背中が視界に飛び込んできた。
「リベルト、ちょっといいか。話がある」
「……」
「リベルト! ペンを置け!」
「……」
何度アルバが声をかけても、リベルトはいっさいの反応を示さない。
「ダメだ。ありゃ完全に仕事モードに入ってるな。こうなったらひと段落つくまで放置するしかなさそうだ」
そのアルバの言葉に、フィリスはふと疑問を抱く。
「ですが……この仕事もモード中とやらに緊急事態が起きたらどうするんですか? このまま放置したら、きっと何時間もずーっと飲まず食わずで仕事を続けるような人なんですよね?」
さっきのエルマーの発言からして、リベルトは既に睡眠不足状態なのは確定している。
「……いやぁ、そうなんだが」
「休息を取らなければ、いつか身体が悲鳴を上げますよ。今はよくても、近い未来必ず。せっかくものすごい強さを持っていても、身体を壊しては意味がありません」
そんなのはアルバも重々承知なのはわかっている。だからこそ、こうやって世話係を探していたのだろう。でも、言うことを聞かないから放っておくというのは、フィリスは断じて反対だった。
フィリスの家族は病弱で、仕事をしたくてもできないことが多かった。その悔しそうで申し訳なさそうな表情を思い出すと、フィリスは胸が痛んだ。
そう言った人たちを近くでずっと見てきたからこそ、フィリスは健康がどれだけ大事かを知っている。
「私、このまま部屋に残ります。挨拶はなんとかひとりで済ませますから、アルバ団長は仕事に戻って大丈夫です」
「そうか。君が言うなら、お言葉に甘えさせてもらおう。……それじゃあ、これも任せていいか?」
「はい。もちろん。きちんとリベルト様にお戻しさせていただきますね」
「頼んだ。結局また、君に託すことになってしまったな」
アルバはリベルトのバッジをフィリスに渡すと、フィリスを置いてリベルトの部屋を後にした。
フィリスは部屋に入り扉を閉める。
リベルトの部屋は執務室も兼ねているようで、副団長という地位もあるためかものすごく広かった。下手すると、実家のフィリスの部屋よりも広いかもしれない。
(……この部屋もすごい散らかりようだけど)
案の定、リベルトの部屋は紙屑とたくさんの書類が床に散らばっていた。先日片付けたばかりの予備の家とほぼ同じような散らかり方だ。
ただまだ救いがあるのは、リベルトの部屋に生ごみやにおいの発生しそうなごみはひとつもないこと。ごみは紙屑、インクのないペン、開封した中身のない封筒、読み終わった新聞――ほとんどがこういった類のものだ。
(量は多いけど、掃除はそんなにたいへんではなさそうね。それに広いからか、ベッドがある部屋の半分から向こう側はそこまで荒れていないわ)
まずどこから手を付けようか……そんな考えが脳内を支配しそうになったが、フィリスははっと我に返って頭をぶんぶんと左右に振った。
(今はまず、どうやったらリベルト様の手を止められるかを考えないと!)
このままでは、また道端で気絶してしまう。
あんなのをこの先何度も起こされては、いくら強いといってもいつ変な事件に巻き込まれるかわからない。
フィリスはリベルトに近づいて、後ろから彼の手元を覗き込んだ。
ちょうど書き出した新型魔物の情報をまとめている最中のようで、魔物の大きさや体重、見た目の特徴などを細やかに書き込んでいる。
すごく真剣な目をしているので、この距離から話しかけても反応してもらえるとは思わない。
「あのー、リベルト様。よろしいでしょうか」
「……」
(やっぱりね)
予想通り、リベルトは振り向く素振りも見せてくれなかった。
(うーん。どうするべきかしら。……ん?)
そのとき、フィリスはリベルトがまとめている資料に漏れがあるのを発見する。
「フィリスくん。今日から制服にこれをつけてもらえるか」
リベルトの部屋へ向かう途中、アルバにバッジを渡される。それはリベルトが忘れていったのと同じ紋章が入ったバッジだった。
「本来、使用人が身に着けることはないんだが、君は普通の侍女ではなくリベルトの専属だ。その区別を周囲がつけられるようにするために、胸元につけておいてくれ」
「なんだか恐れ多いですが……そういうことならわかりました」
「本当はリボンや、男性ならばネクタイで区別分けさせるんだがな。主人が自分のカラーと呼べる色のものを渡して、専属の証とするんだ。だがまぁ……リベルトがそんなのを用意する男ではないのはわかるだろう」
「はい。そもそもリベルト様は専属を望んでないのですよね……?」
「そうなんだよ。こっちが勝手にやっていることだから、あまり強制しづらくてね」
互いに眉を下げて笑い合っていると、リベルトの部屋に到着した。
「あいつは鍵も基本かけていないからな。勝手に開けてしまおう」
アルバは呼びかけもせずに扉を開けると、部屋の奥で机に向かうリベルトの背中が視界に飛び込んできた。
「リベルト、ちょっといいか。話がある」
「……」
「リベルト! ペンを置け!」
「……」
何度アルバが声をかけても、リベルトはいっさいの反応を示さない。
「ダメだ。ありゃ完全に仕事モードに入ってるな。こうなったらひと段落つくまで放置するしかなさそうだ」
そのアルバの言葉に、フィリスはふと疑問を抱く。
「ですが……この仕事もモード中とやらに緊急事態が起きたらどうするんですか? このまま放置したら、きっと何時間もずーっと飲まず食わずで仕事を続けるような人なんですよね?」
さっきのエルマーの発言からして、リベルトは既に睡眠不足状態なのは確定している。
「……いやぁ、そうなんだが」
「休息を取らなければ、いつか身体が悲鳴を上げますよ。今はよくても、近い未来必ず。せっかくものすごい強さを持っていても、身体を壊しては意味がありません」
そんなのはアルバも重々承知なのはわかっている。だからこそ、こうやって世話係を探していたのだろう。でも、言うことを聞かないから放っておくというのは、フィリスは断じて反対だった。
フィリスの家族は病弱で、仕事をしたくてもできないことが多かった。その悔しそうで申し訳なさそうな表情を思い出すと、フィリスは胸が痛んだ。
そう言った人たちを近くでずっと見てきたからこそ、フィリスは健康がどれだけ大事かを知っている。
「私、このまま部屋に残ります。挨拶はなんとかひとりで済ませますから、アルバ団長は仕事に戻って大丈夫です」
「そうか。君が言うなら、お言葉に甘えさせてもらおう。……それじゃあ、これも任せていいか?」
「はい。もちろん。きちんとリベルト様にお戻しさせていただきますね」
「頼んだ。結局また、君に託すことになってしまったな」
アルバはリベルトのバッジをフィリスに渡すと、フィリスを置いてリベルトの部屋を後にした。
フィリスは部屋に入り扉を閉める。
リベルトの部屋は執務室も兼ねているようで、副団長という地位もあるためかものすごく広かった。下手すると、実家のフィリスの部屋よりも広いかもしれない。
(……この部屋もすごい散らかりようだけど)
案の定、リベルトの部屋は紙屑とたくさんの書類が床に散らばっていた。先日片付けたばかりの予備の家とほぼ同じような散らかり方だ。
ただまだ救いがあるのは、リベルトの部屋に生ごみやにおいの発生しそうなごみはひとつもないこと。ごみは紙屑、インクのないペン、開封した中身のない封筒、読み終わった新聞――ほとんどがこういった類のものだ。
(量は多いけど、掃除はそんなにたいへんではなさそうね。それに広いからか、ベッドがある部屋の半分から向こう側はそこまで荒れていないわ)
まずどこから手を付けようか……そんな考えが脳内を支配しそうになったが、フィリスははっと我に返って頭をぶんぶんと左右に振った。
(今はまず、どうやったらリベルト様の手を止められるかを考えないと!)
このままでは、また道端で気絶してしまう。
あんなのをこの先何度も起こされては、いくら強いといってもいつ変な事件に巻き込まれるかわからない。
フィリスはリベルトに近づいて、後ろから彼の手元を覗き込んだ。
ちょうど書き出した新型魔物の情報をまとめている最中のようで、魔物の大きさや体重、見た目の特徴などを細やかに書き込んでいる。
すごく真剣な目をしているので、この距離から話しかけても反応してもらえるとは思わない。
「あのー、リベルト様。よろしいでしょうか」
「……」
(やっぱりね)
予想通り、リベルトは振り向く素振りも見せてくれなかった。
(うーん。どうするべきかしら。……ん?)
そのとき、フィリスはリベルトがまとめている資料に漏れがあるのを発見する。