このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~

4 食生活の改善

「……ん……あれ……」
 次の日。
 フィリスはようやく目を覚ます。
いつもより妙にふかふかとしたベッドに、これまたいつもより肌触りの良いシルクで覆われた羽毛布団。その感触に違和感を覚えつつ、フィリスはのそのそと身体を起こして目を擦る。
(私の部屋じゃあない……? あれ、それならここってどこだろう……昨日、リベルト様の部屋に食事を運んで……)
 まだ眠たさが残る意識の中で、フィリスはぼんやりと記憶を掘り起こしていたが、途中でとんでもない事実に気付いて一瞬で目を覚ました。
(私、リベルト様の部屋で寝落ちしちゃった!?)
 布団をがばりと引きはがせば、案の定制服姿のままだった。それを見てサーッと血の気が引いて行く。
(やらかしてしまった。ああ、ついいつもの癖で……!)
フィリスはジェーノの看病をしながら、一緒に寝落ちする癖があった。目の前で気持ちよさそうに眠っている人を見ると、なぜかフィリスも伝染するようにそばで眠りについてしまう。その癖を、あろうことかリベルト相手にも発揮してしまったのだ。
(でも私、床に座り込んだまま寝ていたはずよね? もしかして……リベルト様がベッドまで?)
 だとしたら、リベルトはフィリスより先に起きていたことになる。
壁にかけられた時計を見ると、もう朝の八時を指していた。連日僅かな睡眠しかとらなかったせいで、十二時間以上は余裕で眠りについていたらしい。
 とにかくリベルトに謝ろうと飛び起きるも、部屋にリベルトの姿は見当たらなかった。勝手に自室へ戻るわけにもいかず、そのまま五分ほど待機していると、リベルトが部屋に戻って来た。
「……起きたか」
 部屋の前でリベルトを待ち構えていたフィリスを見て、リベルトは特になにも気にしていない様子でそう言った。
「ごっ、ごめんなさいリベルト様! 使用人の身でありながら、リベルト様のベッドを占領するなんて……!」
 フィリスは自分の軽率な行動を恥じながら、リベルトに向かって頭を下げた。
 なんの反応も返ってこないため、恐る恐る顔を上げる。すると、リベルトは涼しい顔をしたまま口を開く。
「寝ているやつと倒れているやつは、ベッドで寝かせるのが基本だろう。だから運んだだけだ。気にするな」
 フィリスが寝ていたから、ベッドに運んだだけ。
 そのリベルトの主張は、特に厚意でやったわけではないことが感じ取れた。
(普段非常識なのに、わけがわからないところで常識があるのね)
 知れば知るほど、リベルトという人物は興味深い。
 とりあえず、全然気にしていないようでよかったとフィリスは胸を撫でおろす。
「お心遣い、ありがとうございます。すぐに着替えて朝食の準備をしてきますね」
 部屋には、昨日運んだままの配膳用ワゴンが放置されていた。
(……料理がなくなってる。リベルト様、ちゃんと食べてくれたんだ)
 空になった皿を見て、フィリスの口角がおもわず上がった。
「食事はいい。朝は食べないんだ」
「……そうなんですか? では、フルーツや飲み物だけでも持ってきましょうか?」
「いらない」
「では、昼と夜はなにか食べたいものはございますか? 朝食を抜いた分、そこでしっかりバランス良く食べたほうがよいかと」
「昼も夜も、食べたいものは特にない」
 リベルトは真顔で、淡々とした口調でフィリスに返事をした。
(そういえば、アルバ団長が言ってたわね。……リベルト様は三大欲求のすべてに興味がないと)
 昨日休息の大事さは教えたが、現時点でまだ睡眠欲が改善されたとは言い切れない。
 食への興味のなさも、さっきの会話でよくわかった。しかし、興味がない割にはしっかりとした肉体を保っている。
 一緒に暮らすうえでリベルトが薄着になった姿をちらりと見たことがあるが、きちんと筋肉がついた男らしい身体をしていた。服を着ているときとのギャップがすごくて、思い出すだけでも少し顔が熱くなるほどだ。
「リベルト様って、これまでなにを食べて過ごしていたんですか?」
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