このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
** *
ホワイトピーチパイを作って一夜明け、フィリスは朝からリベルトと王宮敷地内にあるハウスへと足を運んでいた。
リベルトに雪桃の入手先を教えると約束したが、昨日はもう夜だったため、一日持ち越しての種明かしとなった。
昨日もお世話になった庭師に軽く挨拶をして、フィリスはリベルトと共に雪桃を栽培しているハウスへ向かう。
「俺も一度だけハウスに来たことがある。懐かしいな」
「エルマーさんから聞きました。リベルト様、魔法を駆使して雪桃を編み出そうとしたんですよね?」
「ああ。二か月はその研究に費やしたが、結局うまくいかなかった」
当時を思い出しているのか、リベルトは悔しそうに唇をきつく結ぶ。
(そのときも栄養剤に頼っていたんだろうな……)
リベルトを知らない時代なのに、安易に想像がつく。途中で諦めてくれたのが唯一の救いかもしれない。
「そういえばリベルト様って、どんな魔法が使えるんですか?」
氷魔法が使えるのは確定だろうが、たぶんそれだけではないだろう。昨日一緒に作業をしたエルマーも、五属性すべてを扱えていた。
「俺はいわゆる五属性の自然魔法すべてと、水に派生する氷魔法を得意としている。氷だけ使える者はいるが、五属性に加えて派生まで使えるのはそこまでいないと団長に言われた」
「へぇ! すごいです! 五属性使える人自体少ないのに!」
魔法騎士団の役職者となれば、五属性使えるのが当たり前になるのだろうか。
「魔法団にはうじゃうじゃいるぞ。あっちはひとつの魔法を極めている者も多いがな。団長のローランなんかは、転移魔法が使える」
「転移って、瞬間移動みたいなやつですか!?」
「ああ。俺はどちらかというと、魔法の術式や剣技との連携を組み立てるのが好きなんだ。使える魔法は特殊でなくても、いろんな魔法を組み合わせれば特殊魔法を生み出せる」
簡単そうに言っているが、それはとても難しいことだろう。魔法の術式なんて考えだせばキリがないし、あらゆる魔法を組み合わせるには、すべての属性のコントロールを完璧にしなくてはならない。
特殊でない魔法で、特殊魔法を作り出す。そのリベルトの考えは、素直に素敵だとフィリスは思った。
フィリスはどちらかといえば、特殊を望まれない回復魔法で、特殊となってしまった側だ。ラウルやその周辺の人たちにも、散々馬鹿にされてきた。植物なんて回復させなくとも、また種を蒔けばいいだけだと。
(……でも、今回は特殊なおかげで、雪桃を春に生み出すことができた)
普通の回復魔法ならば、到底無理だったろう。
「というか、ここに本当に雪桃があるのか? まだほんの小さな幼果しかないぞ」
木に生る桃は、小さな小さな緑色の幼果だ。
普通の桃は果実を実らせるまでに時間がかかるが、雪桃は幼果となってから半年以上を要する。しかも、ここからの温度調節が重要なのだ。
「この幼果です。これを私の魔法で一気に成熟させたのが、昨日食べた雪桃の正体ですよ」
「……君の魔法で?」
「はい。私の持つ魔力は植物を回復させる魔法と……成長を促進する魔法なんです!」
フィリスが成長の促進もできることに気付いたのは、王都に来てからだった。
初めて市街へ足を踏み入れたとき。フィリスは花壇にあった蕾状態の花を回復させようとしたら、どういうわけか開花させてしまった。
そのときの引っかかりを、フィリスは頭のどこかでずっと覚えていた。そして魔法騎士団で働くことになり、リベルトが戻ってくるまでの二日間。
ナタリアに頼まれて花瓶に花を生けていたときに、また蕾状態の花を見つけ、こっそり魔法を発動してみた。すると、花壇の花と同じように、蕾が綺麗な花を咲かせたのだ。
「初めは回復だけだと思ってたんですが、こんなこともあるんですね」
促進に気付いた過程をリベルトに話しながら、フィリスは自分の手のひらを見つめて眉を下げて笑った。
「君と魔法の相性がよかったんだろう。魔法というのは、相性がいいからその人に宿るわけではない。せっかく魔力を見に宿しても、うまく使いこなせない場合もある」
相性と、自分の魔法との向き合い方。それによって、魔法がパワーアップすることが稀にあるとリベルトが教えてくれた。
「魔力も成長するってことですね……! すごい。私、田舎暮らしであまり知識がなかったので知りませんでした」
「無意識にパワーアップさせるのは大したものだ。……植物の成長の促進か。俺が研究に研究を重ねてもできなかったことが、君の魔法なら簡単に叶えられるとは」
「あ! でも、雪桃に関しては私ひとりではできなかったんです。リベルト様も知っているでしょう? 雪桃は、成長の過程で温度調節が必須だって。私はそこまで管理できないんです。だから普通に成長を促進させるだけでは、雪桃は枯れてしまいます」
成長の促進。言葉だけで聞くと優れたように思えるが、フィリスの魔法はそういった細やかな調整まではできなかった。
もしかすると、まだ促進の魔法を覚えたばかりで、うまくコントロールができていないせいかもしれない。
ホワイトピーチパイを作って一夜明け、フィリスは朝からリベルトと王宮敷地内にあるハウスへと足を運んでいた。
リベルトに雪桃の入手先を教えると約束したが、昨日はもう夜だったため、一日持ち越しての種明かしとなった。
昨日もお世話になった庭師に軽く挨拶をして、フィリスはリベルトと共に雪桃を栽培しているハウスへ向かう。
「俺も一度だけハウスに来たことがある。懐かしいな」
「エルマーさんから聞きました。リベルト様、魔法を駆使して雪桃を編み出そうとしたんですよね?」
「ああ。二か月はその研究に費やしたが、結局うまくいかなかった」
当時を思い出しているのか、リベルトは悔しそうに唇をきつく結ぶ。
(そのときも栄養剤に頼っていたんだろうな……)
リベルトを知らない時代なのに、安易に想像がつく。途中で諦めてくれたのが唯一の救いかもしれない。
「そういえばリベルト様って、どんな魔法が使えるんですか?」
氷魔法が使えるのは確定だろうが、たぶんそれだけではないだろう。昨日一緒に作業をしたエルマーも、五属性すべてを扱えていた。
「俺はいわゆる五属性の自然魔法すべてと、水に派生する氷魔法を得意としている。氷だけ使える者はいるが、五属性に加えて派生まで使えるのはそこまでいないと団長に言われた」
「へぇ! すごいです! 五属性使える人自体少ないのに!」
魔法騎士団の役職者となれば、五属性使えるのが当たり前になるのだろうか。
「魔法団にはうじゃうじゃいるぞ。あっちはひとつの魔法を極めている者も多いがな。団長のローランなんかは、転移魔法が使える」
「転移って、瞬間移動みたいなやつですか!?」
「ああ。俺はどちらかというと、魔法の術式や剣技との連携を組み立てるのが好きなんだ。使える魔法は特殊でなくても、いろんな魔法を組み合わせれば特殊魔法を生み出せる」
簡単そうに言っているが、それはとても難しいことだろう。魔法の術式なんて考えだせばキリがないし、あらゆる魔法を組み合わせるには、すべての属性のコントロールを完璧にしなくてはならない。
特殊でない魔法で、特殊魔法を作り出す。そのリベルトの考えは、素直に素敵だとフィリスは思った。
フィリスはどちらかといえば、特殊を望まれない回復魔法で、特殊となってしまった側だ。ラウルやその周辺の人たちにも、散々馬鹿にされてきた。植物なんて回復させなくとも、また種を蒔けばいいだけだと。
(……でも、今回は特殊なおかげで、雪桃を春に生み出すことができた)
普通の回復魔法ならば、到底無理だったろう。
「というか、ここに本当に雪桃があるのか? まだほんの小さな幼果しかないぞ」
木に生る桃は、小さな小さな緑色の幼果だ。
普通の桃は果実を実らせるまでに時間がかかるが、雪桃は幼果となってから半年以上を要する。しかも、ここからの温度調節が重要なのだ。
「この幼果です。これを私の魔法で一気に成熟させたのが、昨日食べた雪桃の正体ですよ」
「……君の魔法で?」
「はい。私の持つ魔力は植物を回復させる魔法と……成長を促進する魔法なんです!」
フィリスが成長の促進もできることに気付いたのは、王都に来てからだった。
初めて市街へ足を踏み入れたとき。フィリスは花壇にあった蕾状態の花を回復させようとしたら、どういうわけか開花させてしまった。
そのときの引っかかりを、フィリスは頭のどこかでずっと覚えていた。そして魔法騎士団で働くことになり、リベルトが戻ってくるまでの二日間。
ナタリアに頼まれて花瓶に花を生けていたときに、また蕾状態の花を見つけ、こっそり魔法を発動してみた。すると、花壇の花と同じように、蕾が綺麗な花を咲かせたのだ。
「初めは回復だけだと思ってたんですが、こんなこともあるんですね」
促進に気付いた過程をリベルトに話しながら、フィリスは自分の手のひらを見つめて眉を下げて笑った。
「君と魔法の相性がよかったんだろう。魔法というのは、相性がいいからその人に宿るわけではない。せっかく魔力を見に宿しても、うまく使いこなせない場合もある」
相性と、自分の魔法との向き合い方。それによって、魔法がパワーアップすることが稀にあるとリベルトが教えてくれた。
「魔力も成長するってことですね……! すごい。私、田舎暮らしであまり知識がなかったので知りませんでした」
「無意識にパワーアップさせるのは大したものだ。……植物の成長の促進か。俺が研究に研究を重ねてもできなかったことが、君の魔法なら簡単に叶えられるとは」
「あ! でも、雪桃に関しては私ひとりではできなかったんです。リベルト様も知っているでしょう? 雪桃は、成長の過程で温度調節が必須だって。私はそこまで管理できないんです。だから普通に成長を促進させるだけでは、雪桃は枯れてしまいます」
成長の促進。言葉だけで聞くと優れたように思えるが、フィリスの魔法はそういった細やかな調整まではできなかった。
もしかすると、まだ促進の魔法を覚えたばかりで、うまくコントロールができていないせいかもしれない。