このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「じゃあ、どうやって昨日は雪桃を?」
「偶然会ったエルマーさんに手伝ってもらいました。私が促進魔法をかけて、その成長に合わせてエルマーさんが桃の周りの温度を調節してくれたんです。さすがにハウス全体の温度はいじれませんからね」
昨日、フィリスがエルマーを連れ出したいちばんの理由。それは、雪桃を作るためのサポート役だ。
(最初はぶつくさ言っていたけど、途中からエルマーさんも楽しんでくれていたし、結果オーライだわ)
エルマーはフィリスの特殊魔法に興味を持ち、最後には『本当に面白いものが見られました』と満足げな表情を浮かべていた。
「庭師に雪桃をいじってもいい許可は、当然得ているんだよな?」
「当然です。リベルト様だって、以前自分で雪桃を作ろうとしたときに許可を得てやったでしょう?」
「……」
リベルトは黙り込む。無許可でやったのならなかなかの暴挙と思うが、リベルトらしいといえばリベルトらしい。
「君に頼みがある。昨日エルマーがやった役割を、今から俺にやらせてほしい」
「えっ! 今からですか」
「俺は雪桃を調べつくしている。俺がやったほうが、昨日よりさらに上をいく最高の雪桃を作り出せる」
(み、見たことないくらい燃えた瞳してる……)
触れると熱そうなくらい、リベルトは全身から闘志の炎を燃やしていた。
「……わかりました。やってみましょう」
フィリスとリベルトは目を合わせて、力強く頷き合う。
こうしてふたりの、初めての共同作業がスタートした。
フィリスは成長促進の魔法に集中し、ひたすらその魔法を発動し続ける。次第に幼果は緑から白へと色を変化させ、それに合わせてリベルトが火魔法で適度な温度を保ち、水と風で湿度と空気の流れを微調整していく。
全力で集中し、一時間ほど経った頃――まだ幼果だった雪桃は、少しだけピンクがかった白い桃へと姿を変えた。
(さすがリベルト様……! なにも見なくたって温度調節が完璧! 素晴らしい記憶力だわ……)
エルマーとの手探りの作業も楽しかったが、リベルトとの作業は互いに本気の職人技のようで、どちらも毛色が違っていい経験となった。
額に滲んだ汗を拭い、出来上がったばかりの雪桃をリベルトに渡す。
「……ようやくできた」
感慨深そうに、リベルトは瞳を輝かせて雪桃をあらゆる角度から見つめている。
「ありがとうフィリス。君のおかげで、念願のリベンジが果たせた」
リベルトの表情が明るくなり、唇が柔らかなカーブを描く。優しい微笑みを受けて、フィリスは温かな気持ちになった。
「いいえ。お手伝いができてよかったです」
昨日はエルマーにサポートを頼んだが、今日は自分がリベルトをサポートする側として役目を果たせた。
散々馬鹿にされてきた魔法でも、目の前のひとりを喜ばせることができたなら、こんなに嬉しいことはない。フィリスは初めて、自分の魔法に自信を持てた。
「この技術があれば、いつでも雪桃が食べられるな。俺と君が協力すれば、冬でなくとも作り放題だ」
「なにを言っているのですかリベルト様。そんなことをしては、雪桃の価値が薄くなります。これは冬にしか食べられないから価値があるんです」
いつでも食べられるようになれば希少価値が低くなり、高値で売れなくなるだろう。国が一生懸命、品種改良を重ねて生み出したブランド品だ。ほかの雪桃はこのまま、冬に実るのを待つべきだとフィリスは主張する。
「……そうか。では、次に食べられるのは冬なんだな」
捨てられた子犬のように、リベルトは広い肩幅を縮こまらせてしゅんと落ち込んだ。なんだか母性本能をくすぐられるような可愛らしさがあって、ついフィリスも慰めモードに入ってしまう。
「ま、毎食ホワイトピーチパイを出すのは無理だけど、月に一回ならいいと庭師に許可をもらっています」
「……いいのか?」
「はい。その代わり昨日も言いましたが、毎日きちんとした食事を摂ってくださいね」
人差し指を立てて、フィリスはリベルトに言い聞かせた。
「わかってる。……世話係だからって、君がここまでしてくれるとは思わなかった」
「リベルト様のことは、なんだか仕事とか関係なく放っておけないというか……」
リベルトはいろんな意味で危うい男。
最初は高い給料をもらっているからこそ、アルバの期待に応えられるためできる限りのことをしよう。それだけだった――が、一緒に過ごしていくたびに、単純に放っておけなくなった。フィリスが元々世話焼きな性格をしているせいもあるだろう。
そういった意味では、世話係という仕事はフィリスにぴったりだった。
「すっかり目が離せない存在です」
フィリスは上目遣いでリベルトを見上げると、目尻を下げてふわりと笑った。柔らかで清廉な桃の香りが広がるハウスにぴったりの、優しい微笑みだった。
微かに目を見開いて、リベルトはフィリスの顔をじっと見続ける。変な顔でもしていたかと思い、注がれる眼差しにフィリスのほうが目を背けたくなった。
「偶然会ったエルマーさんに手伝ってもらいました。私が促進魔法をかけて、その成長に合わせてエルマーさんが桃の周りの温度を調節してくれたんです。さすがにハウス全体の温度はいじれませんからね」
昨日、フィリスがエルマーを連れ出したいちばんの理由。それは、雪桃を作るためのサポート役だ。
(最初はぶつくさ言っていたけど、途中からエルマーさんも楽しんでくれていたし、結果オーライだわ)
エルマーはフィリスの特殊魔法に興味を持ち、最後には『本当に面白いものが見られました』と満足げな表情を浮かべていた。
「庭師に雪桃をいじってもいい許可は、当然得ているんだよな?」
「当然です。リベルト様だって、以前自分で雪桃を作ろうとしたときに許可を得てやったでしょう?」
「……」
リベルトは黙り込む。無許可でやったのならなかなかの暴挙と思うが、リベルトらしいといえばリベルトらしい。
「君に頼みがある。昨日エルマーがやった役割を、今から俺にやらせてほしい」
「えっ! 今からですか」
「俺は雪桃を調べつくしている。俺がやったほうが、昨日よりさらに上をいく最高の雪桃を作り出せる」
(み、見たことないくらい燃えた瞳してる……)
触れると熱そうなくらい、リベルトは全身から闘志の炎を燃やしていた。
「……わかりました。やってみましょう」
フィリスとリベルトは目を合わせて、力強く頷き合う。
こうしてふたりの、初めての共同作業がスタートした。
フィリスは成長促進の魔法に集中し、ひたすらその魔法を発動し続ける。次第に幼果は緑から白へと色を変化させ、それに合わせてリベルトが火魔法で適度な温度を保ち、水と風で湿度と空気の流れを微調整していく。
全力で集中し、一時間ほど経った頃――まだ幼果だった雪桃は、少しだけピンクがかった白い桃へと姿を変えた。
(さすがリベルト様……! なにも見なくたって温度調節が完璧! 素晴らしい記憶力だわ……)
エルマーとの手探りの作業も楽しかったが、リベルトとの作業は互いに本気の職人技のようで、どちらも毛色が違っていい経験となった。
額に滲んだ汗を拭い、出来上がったばかりの雪桃をリベルトに渡す。
「……ようやくできた」
感慨深そうに、リベルトは瞳を輝かせて雪桃をあらゆる角度から見つめている。
「ありがとうフィリス。君のおかげで、念願のリベンジが果たせた」
リベルトの表情が明るくなり、唇が柔らかなカーブを描く。優しい微笑みを受けて、フィリスは温かな気持ちになった。
「いいえ。お手伝いができてよかったです」
昨日はエルマーにサポートを頼んだが、今日は自分がリベルトをサポートする側として役目を果たせた。
散々馬鹿にされてきた魔法でも、目の前のひとりを喜ばせることができたなら、こんなに嬉しいことはない。フィリスは初めて、自分の魔法に自信を持てた。
「この技術があれば、いつでも雪桃が食べられるな。俺と君が協力すれば、冬でなくとも作り放題だ」
「なにを言っているのですかリベルト様。そんなことをしては、雪桃の価値が薄くなります。これは冬にしか食べられないから価値があるんです」
いつでも食べられるようになれば希少価値が低くなり、高値で売れなくなるだろう。国が一生懸命、品種改良を重ねて生み出したブランド品だ。ほかの雪桃はこのまま、冬に実るのを待つべきだとフィリスは主張する。
「……そうか。では、次に食べられるのは冬なんだな」
捨てられた子犬のように、リベルトは広い肩幅を縮こまらせてしゅんと落ち込んだ。なんだか母性本能をくすぐられるような可愛らしさがあって、ついフィリスも慰めモードに入ってしまう。
「ま、毎食ホワイトピーチパイを出すのは無理だけど、月に一回ならいいと庭師に許可をもらっています」
「……いいのか?」
「はい。その代わり昨日も言いましたが、毎日きちんとした食事を摂ってくださいね」
人差し指を立てて、フィリスはリベルトに言い聞かせた。
「わかってる。……世話係だからって、君がここまでしてくれるとは思わなかった」
「リベルト様のことは、なんだか仕事とか関係なく放っておけないというか……」
リベルトはいろんな意味で危うい男。
最初は高い給料をもらっているからこそ、アルバの期待に応えられるためできる限りのことをしよう。それだけだった――が、一緒に過ごしていくたびに、単純に放っておけなくなった。フィリスが元々世話焼きな性格をしているせいもあるだろう。
そういった意味では、世話係という仕事はフィリスにぴったりだった。
「すっかり目が離せない存在です」
フィリスは上目遣いでリベルトを見上げると、目尻を下げてふわりと笑った。柔らかで清廉な桃の香りが広がるハウスにぴったりの、優しい微笑みだった。
微かに目を見開いて、リベルトはフィリスの顔をじっと見続ける。変な顔でもしていたかと思い、注がれる眼差しにフィリスのほうが目を背けたくなった。